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劇薬小説No.1「獣儀式」よい子は読んじゃダメ、ゼッタイ

獣儀式 このエントリはグロいので、苦手な人は避けるが吉。「これはひどい」がピッタリの逸品を、ご紹介。

 「鬼たちが冥土から溢れてこの世界に出現して以来、はや一ヶ月になる」から始まる、読む地獄。人間なんて、糞袋。まさに劇物。まさに毒書。バカバカしさを暴力エロスでねじ伏せる、奇書というより狂書

 こんなにエロくてグロくて血みどろで、腐肉とウジ虫たっぷりの、酸っぱい胃液と激しい勃起に悩まされたやつは、初めて。オススメいただいたantipopさん、nananasuさん、ありがとうございます。

 いろいろ読んできたつもりだけれど、これほど鬼畜劣情な小説は、ない。スプラッター小説なら、クライヴ・バーカー「血の本」シリーズや、綾辻行人「殺人鬼」でおなかいっぱいだよー、と思っていたが、本書はゆうゆうとK点を超えて臓腑に刺さる。

 じゃぁどんな話なのかというと―― かいつまむより次を読んでくれ。あ、苦手な人は読まないほうが吉。

怪鳥めいた叫びが、口から洩れた。
だが洋子の耳には、自分の悲鳴も聞こえなかった。激痛に、意識が遠のいていた。
徒労にも全身を踏んばってしまう。そのせいで顔が上向いた。口と目が、大きく開いた。
腰が杭を飲み込む動きを見せた。猟鬼が両足首をひっぱり、その動きを加速する。洋子は反射的に括約筋を絞めていた。それがいっそうの激痛をもたらした。
括約筋もすぐに裂け、使い物にならなくなった。体重のせいで杭が突き入る自然な動きに、身をゆだねるのみ。杭の侵入に合わせて鈍痛が体内を揺する。
ブツン、ブツンという異様な震動がこみあげてくる。
「あは、あはは」
痙攣的な笑いだった。内臓の破れる反動で笑いの声質が微妙に変化する。杭を飲みこむようすを、洋子は全身でばかりなく、声でまで表現しているのだ。



 ええと、何されてるのかというと、地面から突きでた、とがった杭の上に、洋子さんが肛門から串刺しにされているのだ。もちろん若い女の体重じゃちゃんと入らないから、鬼が、彼女の両足をつかんで引き下ろす。洋子さんは既に発狂しているので、「肛門ではなく膣口に刺して」と腰をグラインドさせるが叶わず、残念無念。

 んで、うまい具合に、肛門→直腸→横隔膜→咽喉、と順々につき破って、最後は口から先端が出てくる。「ブツン、ブツン」は、横隔膜の破れる音なんだって(ちと古いが、映画「食人族」のアレね)。「食人族」と違うのは、一本に一人ではなく、先端が出てきたら、その上に次の人を肛門から… を繰り返しているところ。

 さらに、さっきまで洋子さんとヤりまくっていた彼を通り抜けた杭の上に彼女がまたがっている。だから、彼の死に際は壮烈な眺めだよ。なんせ自分の口から突き出た杭に彼女の肛門が迫ってくるわけなんだから。そして、彼女の内臓液を口いっぱい頬張りながら絶命していくわけだから。もちろん彼の「下の人」もいるにはいるが、ずいぶん前なので、ぐじゃぐじゃのデロデロに腐った人塊てんこもりになっている。

 うわーすごーい。こんなんで喜ぶ奴ぁ狂ってるね!と断言できるステキ度満開。

 こ れ が 序 の 口 。

 乱歩、澁澤、サド、筒井と、ジョージ・ロメロとダリオ・アルジェントの作品をこねくり回し・突き混ぜて、出てきた赤黒い何かを煮込んだものを飲み込む感覚。世界設定と不条理さは、筒井「死にかた」そっくり。しかし、本書のほうが読者を気分悪くさせようとするサービス精神(?)旺盛なので、よりオエッて気分を口一杯に味わえるよ!(筒井のような"サゲ"を求めるなかれ)

 というわけで、劇薬小説No.1は「獣儀式」の「狂鬼降臨」にけってーい(voice:夢原のぞみ)。ランキングに変動あり、精神的にヤヴァいものから、胃の腑にグッとくるものまで揃ってきた。
  1. 狂鬼降臨(友成純一) 所収:「獣儀式
  2. 児童性愛者(ヤコブ・ビリング)
  3. 隣の家の少女(ジャック・ケッチャム)
  4. 城の中のイギリス人(マンディアルグ)
  5. 骨餓身峠死人葛(野坂昭如)
  6. 獣舎のスキャット(皆川博子) 所収:「悦楽園」
  7. 暗い森の少女(ジョン・ソール)
  8. ぼくはお城の王様だ(スーザン・ヒル)
  9. 目玉の話(バタイユ)
  10. きみとぼくの壊れた世界(西尾維新)
 このランキングは[劇薬小説を探せ]が元ネタ。「はてな」で質問して、教えていただいたオススメを次々と毒書する企画。最初のわたしのワーストランキングが、みなさんのおかげでどんどん塗り変えられていくのが嬉しい。はてなの住民は、なんつー恐ろしい本を読んでいるんだ…

 「感動する」「爽やかな」「泣ける」小説なんて、クソくらえ。ヌルさに飽いたら、毒成分の高いやつを摂取しよう、ただし、ジコセキニンでね。このランキングは猛毒の類なので、避け本リストとして利用するのもいいかも。

【劇薬指定】 隣の家の少女

 読むと気分が悪くなるので、覚悟完了の上でどうぞ。成人限定。

隣の家の少女 「泣ける」「心温まる」なんて糞くらえ。「感動する」ために読む本の薄いこと薄いこと。感動オナニーの需要をあてこんだ、感動をバーゲンセールする新刊を消費してる人には、凶器になる一冊。そういう連中は、たとえ興味本位でも、読んではいけない。読み手の心を傷つけ、読んだことを後悔させる劇薬小説なのだから。

 自分の肉体を強烈に自覚するてっとり早い方法は、そのナイフで裂いてみることだ。傷つき、血があふれ、痛みを感じたところからが「自分」だ。同様に、心がどこにあるか知りたいならば、「隣の家の少女」を読めばいい。痛みとともに強烈な感情――吐き気や罪悪感、あるいは汚されたという感覚だろうが、ひょっとすると、"気持ちよさ"かもしれぬ――を生じたところが、あなたの「心」だ。

 小説のあらすじは単純だ。主人公は思春期の少年。その隣家に、美しい姉妹が引っ越してくるところから始まる。歳も近いことから、姉のほうに淡い恋心を抱きはじめるのだが――実は彼女は、いわれのな虐待を受けていたのだ、という話。少年は目撃者となるのだが、「まだ」子ども故に傍観者でいるしかない。しかし、「もう」おとな故に彼女が受ける仕打ちに反応する。

 その反応は、罪悪感を伴うものかもしれない。「いいぞもっとやれ」なんて口が裂けてもいえない。「読むのが嫌になった」「恐ろしくなって頁がめくれない」が"正常な"反応だろう。だが、背徳感を覚え始めたところが、彼の、そして読者の心のありかだ。そして、その感覚に苛まれながら、生きていかなければならなくなる。

 読書が登場人物との体験を共有する行為なら、その「追体験」は原体験レベルまで沁み渡る。地下室のシーンでは読みながら嘔吐した。その一方で激しく勃起していた。陰惨な現場を目の当たりにしながら、見ること以外何もできない"少年"と、まさにその描写を読みながらも、読むこと以外何もできない"わたし"がシンクロする。見る(読む)ことが暴力で、見る(読む)ことそのものがレイプだと実感できる。この作品を一言で表すなら「読むレイプ」

 見ることにより取り返しのつかない自分になってしまう。文字通り「もうあの日に戻れない」。

 しかし既に読んで(見て)しまった。それどころか、出会いそのものを忌むべき記憶として留めておかなければならない。わたしたちは、読むことでしか物語を追えない。作者はそれを承知の上で、読むことを強要し、読む行為により取り返しのつかない体験を味わわせる。ここが毒であり、「最悪の読後感」である所以。

 さらに、これは終わらない。酷い小説を読んで気分が悪くなった。でも本を閉じたらおしまいで、現実に戻れる――?ちょっと待て。現実のほうが酷いんじゃないのか?だいたいこの小説も、実際に起きたバニシェフスキー事件を元に書かれたという。本作のネタバレになるが、「インディアナ 少女虐待事件」と「隣の家の少女」が参考になる。ゲームが高じて陰惨な"いじめ"と化し、陵辱がどんどんヒートアップしてゆき、最後には……という話は、恐ろしいことに、珍しいことではない。そうした事件を新聞やテレビで目にするたびに、読み手は、自分が抱いてしまった感情に苛まれることになるだろう。

 最近、この小説のタイトルでの来訪者が多いので、調べてみたら、映画が公開されるそうな……ジャック・ケッチャムを絶賛するなんて、頭イカレてるとしか思えないし、映画を好きこのんで観るような輩は狂ってるとしか思えない。

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 わたし?もちろん行くよ、エチケット袋を持参してね。

【18禁】スゴ本+劇薬小説「城の中のイギリス人」

Sirononakano 久しぶりに趣味全開で書く、お子さま厳禁。ポルノは読んできたつもりだが、これこそ、最高の、ポルノグラフィ(断言)。

 「できるだけ残酷で、破廉恥で、エロティックな物語を書きたい」というのが作者の意図なんだが、見事に成功している。インパク度はメガストア級か、同人レベル。マンガなら氏賀Y太かね。

 例えば、生きのいいタコがうじゃうじゃ蠢く水槽に少女(13歳処女)を投げ込んで、体中に貼り付かせる。タコとスミまみれの彼女(顔にもタコべったり)を犯す→鮮血とスミと白い肌のコントラスト。その後、ブルドックに獣姦。犬のペニスは根元が膨張するので、ムリに抜くと穴が裂けるんだが、ちゃんと再現してる。ぜんぶ終わったらカニの餌。

 あるいは、氷でできたペニス(長さ39cm、亀頭周囲25cm)を肛門にねじ込む。この描写がイイ、感動的ですらある。暖かい臭いを感じた素晴らしいシーン。

肛門と割れ目の窪みに油をそそいでから、私は潤滑油でしとどに濡れた人差指を近づけた。するとなんたる不思議であろう、今度は氷塊ではなく、人間の肉が近づいてきたことを察したのか、薔薇の花はただちに拡がり、口のように開き、指の圧力にたちまち屈したのである。いや、というよりもむしろ、私の指をくわえこんだのである。


 食糞飲尿あたりまえ、悪趣味、倒錯、陵辱、苦痛、加虐性欲の極限。大切なものをいちばん残忍なやり方で破壊する(ラストの"実験"はマジ吐いた)。性の饗宴というよりも、むしろ性の狂宴。正直、そこまでせにゃちんこ立たないなんて、異常!→しかし、この「異常性欲」は城の主にとってみれば最高の美辞。

 鋭利なカミソリで皮脂まで切られ、果物のようにクルリと皮を剥かれた顔を眺めながら、女は濡れるし、男は立つ。吐きながら屹立してることは否定しようがない。城の主のセリフが刺さる。

 「エロスは黒い神なのです」

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cyclolithさんへ私信 : 自信を持ってオススメできる劇薬小説です。素敵度は「隣の家の少女」に匹敵します。ぜひお試しあれ(あるいは、もうご存知かも)

ともさんへ私信 : 手を出しかねてたのが、ともさんの[レビュー]に推されて読みました。ありがとうございます、こんなスゴい劇薬小説を紹介していただいて。おかげで、[劇薬小説コレクション]に新たな逸品が加わりました。

物本のガイキチ「モナ・リーザ泥棒」【劇薬注意】

 ぬるい本などごめんだ、という方への劇薬小説。

 プロットも描写もオチも想定内で、自分の世界を確認するような読書はいらぬ。頭ガツンとさせられるような期待を込めてページを繰るのだから。フランツ・カフカがいいこと言っている。

要するに私は、読者である我々を大いに刺激するような書物だけを読むべきだと思うのだ。我々の読んでいる本が、頭をぶん殴られたときのように我々を揺り動かし目覚めさせるものでないとしたら、一体全体、何でそんなものをわざわざ読む必要があるというのか?


 そういう期待が行き過ぎると、劇薬小説というジャンルに手を伸ばす。これまでの戦果(戦禍?)は、[劇薬小説レビュー集][劇薬マンガレビュー集]にまとめた。文字通り、読んだことを後悔するほど感情・感覚・感性を、激しく揺さぶる作品ばかりだ。純度100%の恐怖の味や、自分の真ッ黒さを思い知らされる凶悪な奴ばかりで、若い人がうっかり読むと、トラウマ化して残りの人生につきまとうのでご注意を。異論・反論は大募集で、その際カウンターとなる劇薬書を教えて欲しい。

 その後、キッツいのをいくつか読んできたのだが、更新をサボっていたら、良いのを教えてもらう。趣味が微妙に似て異なるので、マイ劇薬リストを強化するのにとても役立つ。三柴ゆよしさん、ありがとうございます!「読むとわりと本気で世界が変わる」という殺し文句に痺れました。
  • P.ハイスミス「世界の終わりの物語」
  • J.コシンスキ「ペインティッド・バード」(旧訳「異端の鳥」)
  • ソニー ラブ・タンシ「一つ半の生命」
  • ブノワ・デュトゥールトゥル「幼女と煙草」
  • マルキ・ド・サド「ソドムの百二十日」
  • 中勘助「犬」
Photo_2 そんな方が「これまで読んだ小説のなかでも十指に入る劇薬。四の五の言わずに読むべし」と断定する、ゲオルク・ハイム「モナ・リーザ泥棒」を読んだ……ああ~これはひどいワきっついワ、正真正銘キ○ガイや。子ども同士の頭をシンバルのように打ちあわせて脳漿まみれになる話や、腐乱死体の解剖を詳細に記述する様や、逃げ場のない船上で擬人化されたペストに追い回されるネタなど、たっぷり愉しむ。

 なかでも表題作の「モナ・リーザ泥棒」は、凶人の狂気に狂喜する。キ○ガイを外から眺める仕様は、(自分が安全でいる限り)なかなか楽しいもの。でも見つかったら…という怖さもつきまとう、モナ・リーザ越しに「見られている」感覚。

 ただこの臭い、もっと強烈なやつがありますぜ旦那、筒井康隆「問題外科」なんていかが。狂気+笑いという笑えない組み合わせをとことん突き詰めると、真っ黒な笑い声が自分の腹から出てくる。最凶(最狂?)なのは、ヴィットコップ「ネクロフィリア」だ。リミッターカットした読書をお約束しよう。

ネクロフィリア ここで描かれるのは「愛」。ただし屍を愛する男の話。彼は屍体にしか性的興奮を覚えず、葬儀に列席しては墓地に通い、屍体を掘り出してきては愛する…その形が分からなくなるまで。日記体で淡々と描かれる"非"日常は、すべて屍体の話題ばかり。どうやって愛して、どんな匂いを放ちつつ、どのように崩れていくかが、観察日記のように綴られている。描写のひとつひとつは強い喚起力に満ちており、読めば酸っぱいモノが込み上げてくる(つづきは[屍体愛好者の憂鬱]をどうぞ。)

 劇薬書のリストはそのうち更新する、(一部の方へ)乞うご期待。

陰毛と無毛のあいだ「芋虫」

芋虫 乱歩のアレを丸尾末広がマンガにしたやつ。濃く、エロく、成人限定。

 トシとったなぁと実感するシーンは日常に多々あるが、非日常では「白板に反応しなくなった」、これに尽きる。無毛にはぁはぁしてたのは遠い日のこと、今では茂えてないと、萌えないし燃えない。密生した箇所に、強い欲情を感じる年頃なのだ。これは、オトナになったというよりもむしろ、オヤジになったんだなぁとつくづく思う。

 マンガ化された「芋虫」で、もっとも気に入ったのは、語り手でもある妻のジャングルのようなそれ。鬱屈した情欲が、下半身に燃え上がっているように映える。さしずめ、黒い炎というべきだろう。濃い陰毛は、口でどれほど否定しても、淫蕩の証拠なのだと解釈する。いっぽう夫はすべすべとした肉塊のようで対照的なつくりとなっている。

 傷痍軍人である夫との生活感が変にリアルで、あのうだるような夏のムシ暑さがフレームを通して伝わってくる。夫は戦争で両手両足、聴覚、味覚といった五感のほとんどを失い、タイトルが示す「芋虫」のような姿となっている。醜悪な姿となった夫をいたぶることで、彼女のS心が高ぶる様は、美しく、おぞましい。原作を初めて読んだとき、醜いのはどっち、"芋虫"なのはどっちよ、とつぶやいたものだ。

 マンガ版を読んで改めて思ったところが二点。ひとつめは、夫の珍宝。砲弾とともに吹き飛ばされた……と勝手に思っていたのだが、マンガではご存命。原作を読んだとき、交合できない(けれども夫の欲望処理には応じなければならない)妻の渇きのような抑圧された心象を感じたが、記憶違いか。マンガでは旺盛かつ妖艶な合歓の姿態をみせつける。まさに「セックスは夫婦を救う」やね。「結婚は人生の墓場だ」という諦観モードの人には、「夜は墓場で運動会!」と返歌しよう。

 もうひとつは、変態プレイを求めたのが、"夫側"であること。バナナをバ○ナに差し込んでモグモグしたのをもぐもぐするなんて破廉恥な!青少年保護条例にかかりますよといいたいところだが、原作の変態主導権は、むしろ妻側にあったような。交接できない欲求不満を、ありえないプレイで満たそうとしたのは妻だったはず。もちろん夫も求めて「は」いたのだが、「これなんでしょ、これが好きなんでしょ」と応じていくうちにノリノリになって、そんな自分をぢっと見つめる純な眼にむらっときて……あの悲劇に至る、そんな話だと記憶している。

 いずれにせよ、頭の底にあった「読んではいけない本」の記憶が掻き乱されてイイ感じにしてくれる。じめっと暗くドロドロした汚猥な感じが、剥き出しでエログロな愛欲に取って代わられており、これはこれで浸れる。

 淫靡で耽美で猟奇な世界を、ご賞味あれ。

劇薬小説ベスト10と、これから読む劇薬候補

 はてなでの[募集]の結果。みなさまのオススメに大感謝。冒頭の十大劇薬小説のインパクトが激しかったのか、毒気の濃いものばかり。

 一連のやりとりで気づかされたのは、毒にも薬にもなること、あたりまえなんだけどね。さらに、読んだ時期によって毒成分が異なる、いわば「旬」というものがあること。三島「憂国」なんて特にそう。多感なトシゴロに読むと間違いなく猛毒または特効薬になる。考え方の基盤を根こそぎ変えてしまうようなインパクトをもつ。

 オトコには毒だが女性には効かないとか、童貞専用の猛毒小説とか、子どもがいるなら絶対読めないとか… 属性・状況によりけり。

 ここでは、オススメいただいたいくつかを読んだ感想と、これから読む劇薬候補を挙げる。ぬるい恋愛・涙ちょーだいモノに飽きたらどうぞ。イタいかキモいか分からないが、より本能に近い感覚を味わうべし。

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 劇薬小説ランキングベスト10
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  1. 狂鬼降臨(友成純一) 所収:「獣儀式」
  2. 骨餓身峠死人葛(野坂昭如)
  3. 児童性愛者(ヤコブ・ビリング)
  4. 隣の家の少女(ジャック・ケッチャム)
  5. 城の中のイギリス人(マンディアルグ)
  6. トマト・ソース(H・エーヴェルス)←今回ランクイン
  7. 目玉の話(バタイユ)
  8. 暗い森の少女(ジョン・ソール)
  9. 問題外科(筒井康隆)
  10. きみとぼくの壊れた世界(西尾維新)


「トマト・ソース」以外のレビューは、[ここ]にある。「普通」の人は読まないほうが吉。「トマト・ソース」のレビューは、以下に書いた。

 知らなくてもいいことは、確かにある。いや、「知らない方がいいこと」、だな。

――――――――――――――――――――――――――――――――――
 「はてな」でオススメいただいた「どくいり・きけん」小説
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 残念ながら(?)、オススメいただいて読んだものはどれも楽しめた。通常の感性には強烈なインパクトを持っていることは確か。人によると琴線が焼き切れてしまうかもしれない。

■ 三島由紀夫「憂国」

 死に裏打ちされたセックスが神々しい。健康な欲望と国体が究極のところで合致することが「自然」に見える。切腹シーンは見てきたように、というよりも、自腹を裂いてきたのような生々しさ。

 こんなときは、イメージよりも嗅覚をめぐらすのだが、秘部から淡い立つ匂いだけの描写にとどまっており、ちょい欲求不満。腹腔内はスゴく臭いし、大量の血液が流れ出しているので、鉄臭さが立ち込めているはず。書き手は、そんな状況を分かりきった上で、あえて省いたのだろう。

 「死」をここまで美化する「うろんさ」に辟易する。童貞時代にうっかり読んだら魂にまで刷り込まれていた美文だな。だから、若い人には劇薬になるかも(中学女子あたりが狙い目)。

 高校生の姪っ子に「三島由紀夫の一冊目は何がいい?」と訊かれたことがある。あのときは「夏子の冒険」と即答したけど、今度からは「憂国」を推そう。

■ 筒井康隆「偽魔王」と「乗越駅の刑罰」

 エログロが書きたくって仕方がないのが見える。作中人物よりも著者の欲求がキモチワルイ。やおいに意味を求めることが無意味であるように、エログロ以外は徹底的に何も書いていない。

 口鼻をガムテで塞いで、尻穴から空気をメ一杯入れたら… とか、ありえないチカラで両足を持ってねじり裂いたら… とか、普通の人が考えつく残虐さ。常人の曲芸を見ている感覚。書いてる奴は明らかにおかしい「狂鬼降臨」と比較すると、筒井氏はマトモというより愉快犯に見えてくる。

 「偽魔王」の残虐さが好きなら、バーカー「血の本 : 屍衣の告白」を、「乗越駅の刑罰」の"刑罰"がキた人には、沙藤一樹「D-ブリッジ・テープ」あたりをどうぞ。

■ 曽野綾子「長い暗い冬」

 既読だったのを思い出させてもらった。オススメいただいた toomuchappy さんに感謝。読むと憂鬱になることと、ファイナルインパクトが衝撃的。「太郎物語」あたりをノン気に読んだ直後に手にすると、かなり毒かも。彼女の「地」がよく出ているから。ホラ、あれだ、「時をかける少女」の直後に筒井本人がパロった「シナリオ・時をかける少女」を読むようなもの(アニメで「時かけ」知った人は読んじゃダメ・ゼッタイ)。

彼岸の奴隷■ 小川勝己「彼岸の奴隷」

 登場人物全員がどこか狂っており、マトモな人はどこかで惨殺される。

 最悪なのがヤクザの若頭、こいつは変態狂人として描きたいらしい。部下に肉料理をご馳走してやるんだが、コース最後のデザートで、部下の妻子の生首が出てくる。肉料理というのは自分の妻子の「肉」だったというオチ。

 普通の獣姦ショーには飽き足らず、女の両手両足を切断・縫合し、口裂け状態にしたあと縫い合わせた人玩具にする。縫合はタコ糸というのがポイント。さらに(勃たないのに)自分の子が欲しいそうな。なぜか?自分の愛する存在を食ってしまいたいらしい。つまり、喰うための我が子が欲しいんだって。

 全員が狂っていて、その狂いっぷりを楽しむのなら、「殺伐の野獣館」だね。ハードコア+スプラッタ。強姦、獣姦、近親相姦。死姦、幼姦、阿鼻叫喚。まんぐり、八艘渡、緊縄、ロリペドなんでもござれのつゆだく特盛。「彼岸の奴隷」がイケるならどうぞ。

■ トオマス・マン「トビアス・ミンデルニッケル」

 マンですかーっと構えて読んで引っくり返される。なるほど、「ここに私がいる」感覚は確かにある。ここで犠牲になったのは畜生だったけれど、「人間の赤ん坊」に置き換えると途端に現代日本になる罠。

■ エーヴェルス「スタニスラワ・ダスプの遺言」

 これいい!読み進めるうちに、だんだん追い詰められていく感覚がいい。彼女が何を意図していたのかが最後の最後になって分かる「仕掛け」がいい。物語上のキャラと一緒に逃げ場がなくなった上で、対面させられる恐ろしさで息が詰まるのがいい。

 スゴい小説を読むと発動してしまう悪癖「先読み」のせいで、ラストはExplosionだとあたりをつけていたのだが…見事に裏切られた!しかも、さらにおぞましい形で。オススメいただいたsbiacoさんの評は、

   > 思わずページから顔をそむけたくなるほど。

 だったけど、彼女が○○したという場面では肌がザっと粟だった(彼女の"表情"が見えた)。文字通り心臓が凍る瞬間を味わえる。他に「トマト・ソース」が秀逸らしいが、書籍化されていないようだ… 雑誌を漁るか。

■ エーヴェルス「トマト・ソース」

 本能にクる、思わずページから顔をそむけた。わたしの中の「そういうところ」にビンビンと反応した。いや、グロとかエロといった即物的な奴じゃない。「そういうところ」をキレイに蒸留・昇華した「演出」が、ぜんぶ剥ぎ取られており、まるで自分の臓器をつかみ出されて見せられているようだ。

 いや、それは違うだろ、グロスキーなオマエだから反応しているんじゃぁねぇのか、と反論できる。ああ、そうかもしれない。そうだったなら、どんなにいいことだろう。

 でもね、ボクシングや格闘技を見るとき、血肉が沸き踊る感覚は、確かにある。それを「読む」ことができる。そして、本当は自分が何を求めているのかを、体験することができる。ラストの「コケコッコー!!」の場面は鮮やかに視覚化できたよ、そこに坐って見ているわたし自身も込みで

 惜しいことに、この作品は書籍化されていない。アトリエOCTAが出版した「幻想文学」第64号(2002.7)に、その全訳が掲載されている。図書館かバックナンバーで自分の臓物を確かめて欲しい。

 H.H.エーヴェルス作品は初読みだが、出版界では不遇をかこつているようだ。ヒトラーが好んで読んだという逸話があるぐらいだから? 劇薬アンソロジーを編むなら、いっとう最初に「トマト・ソース」を、ぜひ。

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 これから読む劇薬候補
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 壁投げ本が混ざってるが、少なくとも手にとってみる。触って開いて匂いを嗅いで、あとは本能に従うべし(オンナといっしょ)。文字通り毒味役となってご紹介していこう。
  • ポー「アモンティラードの樽」
  • キャシー・コージャ「虚ろな穴」
  • コンラッド「ガスパール・ルイス」
  • 桐野夏生「グロテスク」
  • 三浦 しをん「むかしのはなし」
  • クック「夜の記憶」
  • 麻耶雄嵩「神様ゲーム」
  • ガストン・ルルー「恐怖夜話」
 もちろん、「それが劇薬なら、コイツは?」というオススメは歓迎しますゾ、激しく。

コメントでオススメされたタイトルは、下記の通り。

神様ゲーム
ヤン・ヴァイス『迷宮1000』
コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』
牧野修『リアルヘヴンへようこそ』
牧野修『だからドロシー帰っておいで』
牧野修『MOUSE』
ドノソ『夜のみだらな鳥』
箱庭社会図
リアルヘブンへようこそ
独白するユニバーサル横メルカルトル
異形の愛
死体のある光景
終わらない夏休み(ネット小説)
牧野修の『屍の王』
友成純一『狂鬼降臨』
村上龍『愛と幻想のファシズム』
『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件』
クビーンの「裏面」
マイケル・マーシャル・スミスの「死影」、「孤影」、「惨影」
マイケル・スレイド/「髑髏島の惨劇」/文春文庫
『羆嵐』吉村昭 (新潮文庫)
『さよならを教えて』
『責め苦の庭』
『白檀の刑』

【募集】劇薬小説

 最悪の読後感を味わわせてくれる、劇薬小説を募集します。

 サイアクの読後感といっても、人によりけり。あまりのXXX描写に、読みながら吐いたのもそうだし、予想外の鬱展開に「読まなきゃよかった」と激しく後悔するのもあり。もう大人なのに、怖くてオシッコちびっちゃったなんて、サイコーですな。

 「トラウマになった」「しばらく何も手につかなくなった」「価値観が変わった」という形容詞が適当だが、ポイントは、「読まなければよかった」という後悔。

 知らなければよかった、トラウマになった、何も手につかなくなった、価値観が破壊されたといった、読んだという記憶ごと抹消したくなるようなものこそ、極上の劇薬小説といえる。

 そう、読書は毒書。あらゆる小説には、多かれ少なかれ「毒」を含んでる。だから、クスリのように効く人もいるし、微量でも猛毒にもなる人もいる。

 毒なのか薬なのか、要は量。小説に「癒し」だの「感動」だの「泣ける」なんて、くだらねぇ。そんなうんこは捨て置いて、猛毒を有している「これはきけん」という劇薬小説を、喰らおう。
 
 「はてな」にも質問を立てておいたので、そちらから回答するとポイントをお渡しすることができる。はてなidがない人は、コメント欄で教えてくださいませ。

 [はてな:劇薬小説を教えてください]

 ただし、読んだらハズレだった、は該当しないので御注意を。いわゆる「壁投げ本」のこと。あまりのくだらなさに「読んだことを後悔した小説」は、対象外とします。

 ちなみに、これまでの経緯は、劇薬小説を探せ【まとめ】をどうぞ。はてなでオススメいただいたものを読んで→フィードバックを繰り返してきた。現在の劇薬小説ランキングは、以下のとおり。ぬる臭いイマドキ小説に飽きたら、どうぞ。いい毒書になるだろうが、ジコセキニンで、どうぞ。

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劇薬小説ランキングベスト10
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  1. 狂鬼降臨(友成純一) 所収:「獣儀式」
  2. 骨餓身峠死人葛(野坂昭如)
  3. 児童性愛者(ヤコブ・ビリング)
  4. 隣の家の少女(ジャック・ケッチャム)
  5. 城の中のイギリス人(マンディアルグ)
  6. 目玉の話(バタイユ)
  7. 暗い森の少女(ジョン・ソール)
  8. 問題外科(筒井康隆)
  9. きみとぼくの壊れた世界(西尾維新)
  10. ぼくはお城の王様だ(スーザン・ヒル)
以下、紹介とレビューへのリンクを掲げる。

■1 狂鬼降臨(友成純一) 所収:「獣儀式」

読む地獄。人間なんて、糞袋。エロくてグロくて血みどろで、腐肉とウジ虫たっぷりの、酸っぱい胃液と激しい勃起に悩まされる。

いろいろ読んできたつもりだけれど、これほど鬼畜劣情な小説は、ない。スプラッター小説なら、クライヴ・バーカー「血の本」シリーズや、綾辻行人「殺人鬼」でおなかいっぱいだよー、と思っていたが、本書はゆうゆうとK点を超えて臓腑に刺さる…

だから、マジメに読むとココロにクるので笑って読むほうが精神衛生上いいのかも。

続きは、[ここ]

獣儀式

■2 骨餓身峠死人葛(野坂昭如)

「これはひどい」と「これはすごい」の両方の賛辞を贈る。さらに、これ読んで女陰を直視できなくなった。この強迫観念は、既視感覚を伴いながらトラウマ化する

なまぐさい臭いが漂ってくる。文体と描写と(脳にうかぶ)ビジュアル映像が濃密に絡み合っていて、呼吸を忘れて読みふける。血しぶくシーンや、兄妹の近親相姦だけがなまぐさいのではない。男を求めて濡れて白くひかっている女陰の臭いがハッキリと嗅ぎ取れるんだ。そして、黒々とした茂みの中に鼻を近づけると、びっしりと詰まって蠢いている蛆虫が見えてくる寸法だ。

続きは、[ここ]

野坂昭如コレクション

■3 児童性愛者(ヤコブ・ビリング)

ペドフィリアの実態。エログロは無し。残虐シーンも無し。にもかかわらず、読みながら嘔吐するトコもあった。ラストは絶望感でいっぱいに。

「小さな子どもと仲良くなること」を生涯の目標にしている男たちがいる。小さな体を自由にしたい欲望を抱いている。バレると糾弾されることを承知しているが故に、ひた隠しにし、表面上は普通の生活を送っている。男たちは、これは「嗜好」の一つだと考えている…

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児童性愛者

■4 隣の家の少女(ジャック・ケッチャム)

「劇薬小説ランキング」の最初のNo.1はこれだった…

読書が登場人物との体験を共有する行為なら、その「追体験」は原体験レベルまで沁み渡った。地下室のシーンでは読みながら嘔吐した。その一方で激しく勃起していた。

陰惨な現場を目の当たりにしながら、見ること以外何もできない"少年"と、まさにその描写を読みながらも、読むこと以外何もできない"わたし"がシンクロする。見る(読む)ことが暴力で、見る(読む)ことそのものがレイプだと実感できる。この作品を一言で表すなら「読むレイプ」

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隣の家の少女

Sirononakano■5 城の中のイギリス人(マンディアルグ)

「エロスは黒い神なのです」。たとえば、生きのいいタコがうじゃうじゃ蠢く水槽に少女(13歳処女)を投げ込んで、体中に貼り付かせる。タコとスミまみれの彼女(顔にもタコべったり)を犯す→鮮血とスミと白い肌のコントラスト。その後、ブルドックに獣姦。終わったらカニの餌。

食糞飲尿あたりまえ、悪趣味、倒錯、陵辱、苦痛、加虐性欲の極限。大切なものをいちばん残忍なやり方で破壊する、性の饗宴というよりも、むしろ性の狂宴。

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■6 目玉の話(バタイユ)

わたしの脳に、「セックスと排尿」をバインドした作品。

愛し合う男女はセックスの際、尿をかけあうという誤った刷りこみのおかげで、変態あつかいされますた。余談だが、かわいい女の子が顔まっかにしておもらしするエロマンガの最高峰はぢたま某「聖なる行水」。「目玉」に辟易したらどうぞ。

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目玉の話

■7 暗い森の少女(ジョン・ソール)

こわい本とはこういうもの。小説読んでて、久しぶりに「もうヤメテ」体験をした。ラストに説明を求める人は、その禍禍しい終わり方に読後感サイアク気分をたっぷりと味わえるだろう。

グロや残虐シーンはあるけどたかが知れてる(これは1978年の作品だぜ!)。グロや残虐だから怖いのではない。人は「分からない」ものに恐怖する。しかも、生きている人間が一番恐ろしい。「分からない」ものへの説明が無いまま、読者は本能的に理解する、「これに違いない」と。そして、それが正しいことを知りつつ、そうならないことを祈るような気持ちで読み進める、真ッ黒なラストに向かって。

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■8 問題外科(筒井康隆)

そろそろ「筒井がないよ!」というツッコミが来そうなので、ここらでエントリ。

ストレートな劇薬、究極的にエログロバイオレンス、かつ下品。二人の外科医で交わされるブラックトークは黒い笑いを、後半加わる外科部長のスプラッターな性的倒錯っぷりは紅い笑いを誘う。おっぱい揉むのに、乳房を切開して、表皮の下から直接モミモミするところが素敵だッ。洗練された下品さをあじわうべし。

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最後の喫煙者

■9 きみとぼくの壊れた世界(西尾維新)

小説仕立てのギャルゲ、ただし最後は「バッド・エンド」しかない…いいえ、これはいまあなたの頭に浮かんだ「よくある意外な結末」ではない、本当の意味でのBAD END。

均衡がゆらいでいる「壊れた世界」のほうがまだマシ。それでもお話が進むから。このラストは「動かない」ところが着地点。よくある話なら死や狂気をもってくるが、ちがう。どこにも進まないし、何かが流れ出ることもない日常。常に1つしかない選択肢を選び続びとり、世界はそこで完結する。出口なし。

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きみとぼくの壊れた世界

■10 ぼくはお城の王様だ(スーザン・ヒル)

子どもは、どこまででも、残酷になれる。あるいは、イジメ慣れしていないイジメは壮絶な結果になる。

つよい憎しみは口いっぱいに広がる。人を真剣に憎んだとき、自分の感情のあまりにも強烈さに慄くことだろう。キングショーは追い詰められながら「人を憎む」という自身感情に苛まれる。どうすることもできないところへ追い込まれる(追い込む?)プロセスを、複眼的に追いかける。もちろん読み手は、なんにもできない、なぁんにも。

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隣ぼくはお城の王様だ

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劇薬小説傑作選
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 さて、「こんだけぇ?」という声が聞こえるので、以下に選外となった作品を挙げる。どれも「はてな : 劇薬小説を教えてください」で教えていただいた良作ばかり。

獣舎のスキャット(皆川博子) 所収:「悦楽園」

グロは皆無。血糊や臓物の代わりに人の心のグロさを存分に味わえる。収録作の一つ「疫病船」は口の中がムズムズする一方で、人の厭らしさが滲み出るダブルのエグさ。「水底の祭り」の屍蝋のエピソードは、水底をぐるぐる回る白い女体が脳に焼き付いて離れなくなだろう。

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悦楽園

聖女の島(皆川博子)

嫁さんに「後味の悪い読後感の小説って何かある?」と訊いたら返ってきた一冊。さすが俺嫁、読後感はでんぐり返ったイヤな気分。

まず設定がナイス。昔は炭田の採掘基地で、今は廃墟化した孤島が舞台。そこに修道会のつくった矯正施設がある。売春、盗み、恐喝の非行を重ね、幼くして性の悦楽を知った少女たちが集められる。

事故で何人か死んだはずなのに全員いる、少女たちの不気味な儀式、食い違う発言、姉の記憶…イヤな仕掛けがたくさんあり、読み手の疑問と不安がどんどんふくらんでくる。悪夢に引き込まれるように先へ先へと進んでいって、ラスト。こいつはまいった。

闇の子供たち(梁石日)

鬼畜ポイントは3つある。小説なのに妙にリアルで、フィクションなのに憤りを感じる。
  1. 8歳で売られた少女→売春宿→HIV感染→AIDS発症→ゴミ捨場に棄てられる→故郷へ→両親困惑&村八分→監禁&放置プレイ→蟻にたかられる(まだ生きている)→父親がガソリンかけて焼殺
  2. ドイツ夫婦が少年を買いにくる→お目当ての子はホルモン剤の打ちすぎ→全身から血を噴出して死亡→男衒「仕方ない、他の奴をあてがっておけ」→ドイツ夫婦「いやぁ、この子もカワイイね」とお持ち帰り
  3. 日本人母「息子の心臓病のドナーを待ってられない」→ブローカー「4,000万でいかがっすか」→とあるNGO「生きた子から心臓を移植することになるッ」→日本人母「ウチの息子に死ねというのですかッ」


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闇の子供たち

血と骨(梁石日)

セックスとバイオレンスを徹底的に書き尽くしているにも関わらず、テーマは「家族」。血と骨という言葉は、コリアンにとって特別な意味がある。朝鮮の巫女の歌の中に、「血は母より受け継ぎ、骨は父より受け継ぐ」という一節がある。朝鮮の父親は息子に対し、「おまえはわしの骨(クワン)だ」という。それは、血もまた骨によって創られることを前提にしているからだ。土葬された死者の血肉は腐り果てようとも骨だけは残るという意味がこめられている。血は水よりも濃いというが、骨は血より濃いのだ。

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血と骨(上)血と骨(下)


絶望系 閉じられた世界(谷川流)

ハルヒで入った人は、本書で絶望する。「谷川+のいぢ」でハルヒのつもりで読むと地雷なので要注意。ハルヒが壮大なトートロジーなら、本書は絶望というシステムの話。

ラノベ読者は「物語の消費者」。キャラやストーリーを効率よく吸収するためにページをめくる。けど、これ、ラノベか? 表紙や序盤の「不思議ちゃん+萌エロ」を期待して読むと、ラノベというフォーマットを突き破って唐突に残虐化する鬱展開に仰天する。感情移入してると心が痛い痛い。

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閉じられた世界

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない(桜庭一樹)

ラノベ続き。ラノベって「ライトノベル」なんだよなー、と読み始めると強烈なボディブローを叩き込まれるのがある。これはその一つで、ヘヴィノベルやね。

友達がバラバラにされて積まれているのを、女の子が見つけるまでの話。ラストでどうなるかは最初のページに書いてある。理不尽なセカイに無力なワタシ。オトナになるためには、子どもを生きのびなければならない。

着地点が分かっていて、そこへの過程を綿密にたどるかと思いきや、そうではない。なぜそんなことになってしまったのかは説明されていない。「百合小説の傑作」という誰かの誉め言葉と表紙の萌え絵に吸い寄せられたのが運の尽き。予備知識ゼロで読むと酷いショックを受けるかもしれない。

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砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

蝿の王(ゴールディング)

「もう一つの十五少年漂流記」との評で読むと撃たれる。少年達が島に漂着するところ、自活を余儀なくされるところまでは一緒だが、そこから先は、「さもありなん」という本能が支配する展開。ニンゲンなんて、ララ~ラ、ラララ、ラ~ラ~ってやつ。極限状態の中での秩序と破壊の話。壊れプロセスが読みどころ。

蝿の王

Roufirudo
ロウフィールド館の惨劇(ルース・レンデル)

この小説ほどネタバレを心配せずに紹介できる。なぜなら、冒頭で全てを明かしているから。最初の2ページで殺人の動機、殺害方法、犠牲者、共犯者を記している。一行目は、こうだ。

   ユーニス・パーチマンがカヴァディル一家を殺したのは、
   読み書きが出来なかったためである。

じゃぁ、なぜ「読み書きが出来なかった」から、一家皆殺しにしたのか、というのがこの話なんだ。納得できる異常性に肝っ玉を震え上がらせながら読むべし。

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ずっとお城で暮らしてる(シャーリイ・ジャクソン)

少女のふるまいって、奇矯な一端もあるので、そのコが本当に狂っているのか正気なのか分からなくなる。狂っているほうがよかったのかも? と思えるが、正気/狂気は読み人次第ってぇやつ。

由緒ある屋敷で暮らす姉妹の話。叔父さんやいとこも出てくるが、中心は美少女姉妹。姉ちゃんはハタチ超えているから少女というにはアレかもしれないが、2年前の惨劇の後、引きこもりになってしまったので、深窓の美女として脳内補完しよう。

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ずっとお城で暮らしてる

くじ(シャーリー・ジャクスン)

遅効性のヤな感じを味わえる

読了(=着火)してからどこを向いてもこの構図に見えてくる。ポイントは「自分で選んだ」こと。選んだ結果がいかなるものであれ、選んだことには変わりはない。選ぶ方法や前提に文句を言っても、すでに「選んだ」事実は動かせない。ラストの一行は分かっていたが、その直前の叫びが他人事じゃない。

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自由自殺法(戸梶 圭太)

プロット一発勝負なら大傑作。ただし、書いてる途中に行き倒れてしまっているもったいない作品。名は体、「国家が自殺ほう助する世界」の話。リアルな日本が描かれている。ネットよくあるセリフ「死ねば?」を執拗に拡大解釈し、「使えない国民を自殺まで誘導する」国家プロジェクトまで昇華させている。そのクセ内情は一切明かさない。ここまでは三重マル。

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自由自殺法

閉鎖病棟(パトリック・マグラア)

この小説をどういう風に読むのが効果的か考え込んでしまう。「歪んだ純愛の形」も「狂気に燃える情炎」もマチガイではないのだが、話者の狂気まで想像が閃いてしまうのは気のせい? 裏読みすぎ?

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閉鎖病棟

完璧な犠牲者(クリスティーン・マクガイア)

ハタチの娘が拉致され、調教され、肉奴隷となった7年間の話。これが「小説」ではなくノンフィクションであるところがスゴい。誘拐した男が自作した箱に「監禁」される。

「もう誰とも干渉したりされたりしたくない」とダンボール箱を被る「箱男」(安部公房)は、さしずめポータブルな引きこもりだろうが、こっちの「箱」は、洗脳のための道具。外界の情報を徹底的に遮断することで容易に精神を壊すことができる。

…「壊れている」のかどうか、分からないんだが…

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完璧な犠牲者

盤上の敵(北村薫)

薬は毒であり、毒は薬にもなる。両者の違いは"量"だけ。

優れた(≠良い)小説は読む人に強い力を与える。それがポジティブなら問題ないが、ネガティブにドライブされるときが恐ろしい。ほとんどの人はネガティブな小説なんて無いと思っていて、ほとんどの人は劇薬小説なんて知らずに生きていく。ときに深淵を覗き込むために劇薬を「少量」手にするのもよいが、読みすぎ注意。

我が家に猟銃を持った殺人犯が立てこもり、妻・友貴子が人質にされた。警察とワイドショーのカメラに包囲され、「公然の密室」と化したマイホーム!末永純一は妻を無事に救出するため、警察を出し抜き犯人と交渉を始める。はたして純一は犯人に王手(チェックメイト)をかけることができるのか?

この入口で「あっと驚くファイナルストライク」を目指す。「まえがき」あたりで叙述系であることは判明するが、劇薬なトコはソコではないことに留意して。

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盤上の敵

妖魔の森の家(ディスクスン・カー)

密室消失トリックとしては陳腐かもしれないが、それはこれをパクった小説のせい。伏線の秀逸さ、設定の巧妙さ、展開の旨さ、全てこれらは、読み終えてから気づく。ああ、そういうことだったのね、と。大きなナゾの傍らにある小さなトリックは気づかれにくい。犯人は、「意外な」人物でなければならない。ナゾは、全てが終わった後に明かされなければならない。

妖魔の森の家

そして読者は、最後の一行で戦慄しなければならない

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溝鼠(新堂冬樹)

ずばり変態小説。「ヘンタイがでてきて読後感サイアク」との触れ込みで読んだが、勧めてくれた方は団鬼六を読んでないな。「溝鼠」をヘンタイというならば「花と蛇」をどうぞ。ヘンタイ萌えできますぞ。グロを抜いたらフランス書院にすら負ける。ただし、「そういうの」を身構えずに読んだ方はかわいそうかも。肛虐や飲尿が普通にあるし。

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溝鼠

アクアリウムの夜(稲生平太郎)

暗黒青春小説。読みながら幾度も「それなんてエロゲ?」という質問を独りごつ。しかし、(当然のことながら)濡れ場がないので期待して読んで壁投げしないように。

文体がイヤらしい。まとい付くような書き方で、描写文が沢山あるにもかかわらず、実感がわかない。例えば、「激痛が走った」とあっても、まるで現実感がない。著者はどう痛いのかを想像して書くよりも、キャラを痛めつけるシーンだからそう書いているだけ。そうした意味でもテキスト系アドベンチャーゲームを彷彿とさせられる。

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アクアリウムの夜

殺戮の野獣館(リチャード・レイモン)

エログロおゲレツ満載の小説。

まずハードコア。強姦、獣姦、近親相姦。死姦、幼姦、阿鼻叫喚。嫐(女男女)も嬲(男女男)もある。まんぐり、八艘渡、緊縄、ロリペドなんでもござれ。ハードSM、食糞や飲尿まであれば百花繚乱だが、さすがにそこまではいかんかった。

スプラッタも負けてない。一撃で顔の半分がエグりとられたり、食い散らかされ脊髄と下半身しか残っていなかったり、血まみれの親の前で娘(10歳ぐらい?)を○○したり、交合中に首チョンパだったり。ナイフ、銃、斧、チョーキング…と殺人手段もなんでもござれ(爆殺と薬殺がなかった)。

じゃぁただのエログロバイオレンスかというとそうでもない。めちゃめちゃなストーリーだがこれがオモシロー。目を閉じアクセル踏みっぱなしの一本道だとアタリをつけていると、ラストでとんでもないオチが待っている。

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我らが影の声(ジョナサン・キャロル)

常態から異常事態へ。このお話を「狂気」の一言で片付けられたらどんなに嬉しいことか。しかし、どこも狂ってないのがおそろしい。だいたいヒトを「正気」と「狂気」の2色で塗り分けようとすること自体がおかしい。正気の中にも狂気を宿し、狂っていても一貫性を見出そうとするのが、ヒトだ。

これは、その変移を味わう小説。「狂う」ということはどういうことかを、一冊かかって知ることができるカモ。

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D-ブリッジ・テープ(沙藤一樹)

【ネコ好き厳禁】子猫を素手で解体する場面が出てくる。扼殺した後、両手で裂くようにバラしているが、子どもの力ではムリ。さらに血抜きもせずに一晩放っておいて、翌日食べている。凝結した血がカチンカチンになって齧りとれなくなるのに。【ネコ好き厳禁】

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D-ブリッジ・テープ

夏の滴(桐生祐狩)

びっくりするほどインモラルッ
びっくりするほどインモラルッ

少年のひと夏の冒険譚なのかと思いきや、予想外どころか場外を越えてトンでもないところまで連れて行かれる。妙にリアルな「いじめ」とその結末が恐ろしい…メインストリームよりも、ね。

夏の滴

地下室の手記(ドストエフスキー)

怨念にまで発展する執拗な自意識へのこだわりは、あっぱれかも。自意識が「過剰」を超えるとどうなるか、この実験は面白い。「地下室」とは自意識のメタファーなんだなー、こんな奴いた(いる)よなー、ネットに多いよなー、と呟きながら読む。

――で、笑いながら読み終わって、気づくんだ。なんてこった!こんなところに俺ガイル。

自意識の重さに悩んだことは、誰でもあるだろう(特に思春期)。屈託なく振舞う友人を羨んだり、根に持つ自分を恥じたかもしれない。そんなヒリヒリ感覚を思い出す一冊。

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地下室の手記

忌中(車谷長吉)

タイトルからして不吉。書影も陰陰と拒絶オーラを発散している、という第一印象を裏切らない。劇薬小説として紹介されて読んだが、こいつは「厭本」ですな。つまり、読んでイヤ~な気にさせる短編集。新聞の三面記事に並ぶ変死、横死、一家心中、夫婦心中が「結」ならば、そいつを起承転結と読まされている感じ。それが、本書。

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忌中

WELL(木原音瀬)

そうした思惑を粉砕してくれるのがこれ。突然世界が崩壊して、生き残ったのは男だけ(女は全滅、原因不明)。ウホッ、男だらけのジ・エンド・オブ・ザ・ワールドというやつ。「世界が終わる」はネタに困ったときの常套手法かもしれんが、だからといって女を殺すな、女を!(←この時点で、潜在読者の半分を作者自ら抹消している)。

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WELL

夏の葬列(山川方夫)

例えば、国語の教科書にある「夏の葬列」(山川方夫)。「戦争の悲惨さ」を伝えるため教科書に採録されたらしいが、激しく勘違いしてる。これは"ミステリ"として読まないと危険。これをノーガードで読んでしまい、強烈なラストで琴線が焼き切れてしまった中学生は少なくないだろう。

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夏の葬列

電話がなっている(川島誠)

中学んときに読んだらトラウマ本になってたかも。罪深いのは、この作品の紹介→「だれかを好きになった日に読む本」(小学中級から)であること。初恋の回想で始まるこの作品、たしかに恋愛譚かもしれないが、そのつもりで読んだら酷い目に遭う。紹介者は"大人"なんだろうがデリカシーなさすぎ…というか悪意すら感じられる。小中学生は"当事者"だろうがッ。

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電話がなっている

────あとは一口感想でご勘弁。

■ ZOO(乙一)

「セブン・ルーム」が劇薬と訊いたが…うーん、ふつうの短編やね。乙一がスキ!な方は面白い本が沢山あって幸せですねっ ← 乙一ファンにかなり失礼なことを書いてしまいました、ごめんなさい。

■ ソドム百二十日(サド)

全編これでもかとエログロ糞尿譚のオンパレード。牛丼好きだけど、三食毎日だとさすがに飽きるよ。

■ よけいなものが(井上雅彦)

これは絶品。非常に短く、キレ味するどい。

■ 瓶詰の地獄(夢野久作)

夢野といえば「ドグラ・マグラ」を劇薬扱いしたくなるが、いかんせんあれは○○○イの世界。ラストの手紙をどう読むかで戦慄できる。初読のときは、(作者の意図どおり)1回目の手紙だと読んだが、あれを「最後の手紙」と故意に誤読すると、もっと恐ろしい妄想が広がるひろがる…

■ ドグラ・マグラ(夢野久作)

推理小説の形を取っている、悪夢のような作品。けどこれを面白く読んでしまったわたしは既に狂っているのかも。

■ 屍鬼(小野不由美)

帯のコピー「完全無欠、逃げ場無し」に偽りのない、恐ろしい小説なり。この小説の底本であるS.キング「呪われた町」よりも面白し。読後感は「怖かった!面白かった!ボリュームありすぎで人に勧められねぇ」。

■ 変身(カフカ)

有名どころだけど、これを推すなら「芋虫」(乱歩)読んだ? と訊きたくなる。

■ 芋虫(江戸川乱歩)

エロとグロの融合がいいですな。特に夫の○を○○すシーンなんて醜怪淫靡にえらく興奮したもの。

■ 家畜人ヤプー(沼正三)

日本国辱もののSM小説、というかSFなのか? 日本人をトコトン貶めているから話題になったのか、その内容のぶっ飛び加減に当時の読者がのけぞったのかは分からないが、奇書中の奇書と呼ばれる。

■ 白夜行(東野圭吾)

即効性は低いかもしれませんが、読後のヘビー感がだらだらと長引く(凹む)作品だと思います。叙事詩という形態と、緻密な伏線が生み出す最悪な読後感です──との評だが、確かにそうかも。ミステリとして夢中になって読んだあと、エア・ポケットに落ち込んだような喪失感に浸れる。

■ 黒い家(貴志祐介)

欲望をストレートに行動にうつす「彼女」をある意味うらやましく思ったり。映画も秀逸で、大竹しのぶの台詞「乳しゃぶれ?」は絶品っす。「黒い家」にハマるのなら、ジャック・ケッチャムやジム・トンプスンをオススメ。

■ 不思議な少年(マーク・トウェイン)

「トム・ソーヤー」でしかトウェインを読んだことがない人は、幸せかも。少年(たぶん中身は○○)の素朴な疑問と行動には絶句するはず。

■ インスマウスの影(ラヴクラフト)

これは、怖い。お話のデキが非常にいい+怖い+「あれ」が生理的にイヤ、と3連発。怖い話の基本はラヴクラフトだと真顔で言える。

■ 1984(ジョージ・オーウェル)

オーウェルは「1984」「動物農場」「カタロニア讃歌」を読みました。「1984」は映画も良い。全体主義なら、同時期に公開された「未来世紀ブラジル」と比較してみると面白いかも(「1984」が陰で「ブラジル」が陽)。ラストはどちらも鬱になることを請合う。小説「1984」を最悪というならば、ハックスリー「すばらしい新世界」なんぞはいかが?

「1984」の救いのないラストの代わりに、今、この国に起こっていることと酷似していることに気がついてガクゼンとして、いやああぁぁぁぁって思うかもしれませんな。

■ 慟哭(貫井徳郎)

「慟哭」はダメ。いかに読ませる筆力があり、心理描写も的確で、展開もツボをおさえていても、「 絶 対 に や っ て は い け な い こ と 」を堂々とメインに持っていった時点で、彼の作品は一切読まない(いや、面白かったんだけどね)。読者を裏切るような作家は、いずれ、読者が裏切るようになるから。あ、でも読後感サイアクは合ってるね。

■ セメント樽の中の手紙(葉山嘉樹)

プロレタリア文学の劇薬小説。一呼吸で読める短さが、そのまま肺腑をえぐる衝撃と化す。DS文学全集で読んだ。

■ 殺戮にいたる病(我孫子武丸)

猟奇シーンが売り物だが、ラストで本当に驚かされた。「かまいたち」で入った人は例外なくビビる or/and 最初から読み始めるだろう。

■ 奴婢訓(スウィフト)

サブタイトルは”アイルランドの貧家の子女たちが両親及び国の負担となることを防ぎ、国家社会的に有用ならしめんとする方法についての私案”。当時、アイルランドで起こっていた食料不足、貧困、人口過剰を一挙に解決する提案が詳細に書かれてる。
これが元祖かもしれないけれど、その亜流・コピーをさんざん読んできたので、笑いどころを探しながら読んでしまった。このオチが始めての人には、衝撃的な劇薬となるだろう。

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参考
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 「劇薬小説」として話題になった奴は、だいたい網羅したつもりだが、まだまだ沢山あるだろう。「これは!」というのがあれば、いつでもオススメしてほしい。
  • リミッター解除の劇薬本ランキング+レビュ → [参照]
  • 以前の劇薬小説ランキング+レビュ → [参照]
  • はてな:劇薬小説を教えてください → [参照]
  • 劇薬マンガレビュー → [参照]
  • 劇薬マンガレビュー第2弾 → [参照]
 リミッター解除版は、完全に解除されているので、気をつけて。

『問題外科』の紅い嘲笑(わら)い

最後の喫煙者 読むと後悔する小説としてオススメいただいた劇薬の一つ、『問題外科』(筒井康隆)を楽しく読了。とってもストレートな劇薬小説だねッ

 まず、宮沢賢治『注文の多い料理店』に出てくるハンターをホウフツとさせる、二人の外科医の洒脱かつ残酷な掛け合いが面白い。さらに、鬼畜ゲー「夜勤病棟」の藤沢亜子が分娩台でビー球と汚物を排泄するシーンを思い出す。内臓姦は氏賀Y太の方が上だなぁ。耐性のない人が読むと間違いなく気持ちが悪くなるので、やめた方が吉。

 入り口はこんなカンジ…

 外科医の広田とおれはさっさと手術を終えて女のところにいくために二人だけでオペをはじめる。眠っている若い女性患者(なぜか全裸)の下腹をばっさりメスで切った瞬間、患者の目がぱっちりと開く。患者だと思っていた女性が看護婦であったことがわかり、口封じに彼女を殺そうとするのだが…


 究極的にエログロバイオレンス、かつ下品。二人の外科医で交わされるブラックトークは黒い笑いを、後半加わる外科部長のスプラッターな性的倒錯っぷりは紅い笑いを誘うかも。『問題』外科医はフィクションだけ、などとつぶやくその後ろで、「病気の腎臓を移植した」ニュースが流れるシュールさにおののくべき… なんだが、これはリアルの話。


【どくいり】骨餓身峠死人葛【きけん】

骨餓身峠死人葛(このエントリにはエログロな描写がありますよ。それから、下品ですよ)

 久しぶりに猛毒にあたった!「これはひどい」と「これはすごい」の両方の賛辞を贈る。それから、この短編のせいで女陰を直視できなくなった。この強迫観念は、既視感覚を伴いながらトラウマ化しつつある。おそろしい、おそろしい。

 お題は「ほねがみとうげほとけかずら」と読む。屍体に寄生して養分を吸い取る葛(かずら)の話だ。わずか30分で読めてしまう短い小説にもかかわらず、これは、一生涯忘れることができない。忘れたい、記憶から消し去りたい ―― めずらしく読んだことを激しく後悔する毒書になった。

 なまぐさい臭いが漂ってくる。文体と描写と(脳にうかぶ)ビジュアル映像が濃密に絡み合っていて、呼吸を忘れて読みふける。血しぶくシーンや、兄妹の近親相姦だけがなまぐさいのではない。男を求めて濡れて白くひかっている女陰の臭いがハッキリと嗅ぎ取れるんだ。そして、黒々とした茂みの中に鼻を近づけると、びっしりと詰まって蠢いている蛆虫が見えてくる寸法だ。

 一生忘れられないところはココ↓

── 女の気ちがいは、色に狂っていて、年中裸同様の姿でうろつきまわり、ところかまわず大の字に寝て、いかにも男さそう如く、腰浮かせてみせ、相手にされぬまま寝こみ、山蟻がよく、その秘所にむけていそがしく行きかい、「どげんしたとね、ほれ、ぼんぼばありにあらされとるがね」老人の一人、親切心に注意すると、女はくるりと裾まくってさらにあらわにし、秘所うごめいてみえるから、思わずたしかめると、びっしり蛆がつまっているので、たしかにそのピチピチとはねるような鳴声をきいたという。

 カマキリやアンコウの雄の例をあげるまでもなく、男はセックスの度に喰われている。あくまで擬似なんだが、ぬらぬらひかっているのを見るとあながち比喩でもないなぁ、としみじみ思うし、それこそ快楽に下半身が無くなったような感覚は喰われてしまったからなのかもしれぬ。

 そういう、女陰の本質的な恐ろしさが、原体験のように刻み込まれた。女が読むと異なった読後感が得られるだろうが、そもそもこんな小説は読んじゃいけないと強く忠告しておく。

 劇薬小説ランキングに変動あり。

  1.児童性愛者(ヤコブ・ビリング)
  2.隣の家の少女(ジャック・ケッチャム)
  3.骨餓身峠死人葛(野坂昭如)
  4.獣舎のスキャット(皆川博子)
  5.暗い森の少女(ジョン・ソール)
  6.ぼくはお城の王様だ(スーザン・ヒル)
  7.砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない(桜庭一樹)
  8.蝿の王(ウィリアム・ゴールディング)

 読むなら心して。

トラウマンガ=トラウマ+マンガ

 「トラウマンガ=トラウマ+マンガ」、すなわち心に大ダメージを与えるトラウマ漫画を探している。「劇薬小説」シリーズ[参照]のマンガ版(劇薬マンガ)だと考えてくれればよいかと。

 このテのものは読み手の年齢に大きく依存するため、人によって評価は大きく変わってくる。それでもこいつは最悪だ!読んだことを激しく後悔するよ、と警告つきでオススメできる作品はなんだろうか。

 条件がひとつだけある。それは、「現在入手可能であること」。オークションに張り込んだり古本屋めぐりをすれば、ひょっとすると入手可能かもしれないが、多くの方に読んでもらいたいので、この条件をつける。

 わたしから紹介するのは2つ。これを超える作品はないと考えているが、「匹敵する」「比肩しうる」というだけでも読むだけの価値ありだろう。このエントリのコメント欄からでもいいけれど、はてなアカウント持っている方は、ぜひ[トラウマンガを教えてください]から回答いただけるとありがたい。ポイントをふるまいますぞ。

デビルマン デビルマン(永井 豪)は、アニメで知ってるからと手を出して、読んで爆発した。読後感は最高に最悪な気分で、読まなければよかったと本気で後悔した。人にはとてもじゃないが勧められないが、読んだ方なら分かるはず、これほど強いマンガはないってことに。スゴいマンガNo.1を挙げよと問われたら迷わずこれ。

 特に後半、首のシーン(といえば分かるよね?)の破壊力は凄まじく、アニメしか知らなかったわたしは、ものすごいショックを受けた。脳が読むことを拒絶して、それでも魅入られたかのように凝視した。これは劇薬というよりも猛毒で、とても人間が描いたものとは思えない。読んだときの年齢によっては、価値観の根っこのところがメチャクチャにされるかもしれない【お子さま厳禁】。アニメとは別物だと考えるべし、映画は別の意味で観てはいけない。

 次は、地獄の子守唄(日野 日出志)、これ読んで頭おかしくなった人がいる、といわれても驚かない。なぜなら、冒頭で作者自身が出てきて、「絶対にこの物語を読むな!」と命令してくるぐらい狂った内容だから。その忠告を無視して読み進めるにしたがって、読むんじゃなかった…と後悔し、最後の大ゴマで恐怖に打ち砕かれるだろう。

地獄の子守唄 夜寝る前に読んではいけない。体の調子が悪いときに読んではいけない。子どもや妊婦は読んではいけない。悩みを抱えてたり、心配事がある人は、絶対に読んではいけない(本気)。もし読むなら、昼間、人がおおぜいいる明るい場所でどうぞ。わたしの場合:本屋で立ち読み→ラストまで読む→あまりの怖さに泣き叫びながら走って帰ったガキの頃。

 人生史上ベストはこの2つ。え、これだけだって? ううむ、他に無いこともないが、この2つが今のところ一位二位なり。

 例えば、「御茶漬海苔なんてどう?」とオススメされそう。妹を使ってホイミやザオリクを「実験」する兄ちゃんの話なんてかなりイヤ。特に、ザオリクを試すために彼がしたことは、いまでも覚えていらっしゃる方がいるかも…

 あるいは、「楳図かずおがどうしてないの?」と訊かれるかもしれない。小学生が「漂流教室」を読めば、いっぺんに人間不信になれるだろう。んが、残念、読んだときはもうオトナになってた。

 さらに、夢雅やエース特濃あたりの幼女姦→切裂いて内臓強姦のエログロをオススメする方がいらっしゃるかもしれない。「東京赤ずきん」なんて候補に挙がりそうだけど、ハゲデブオヤジを下の口で喰っちまう場面なんて、いっそ清々しさを覚える。

 知人・家族にゃオススメできないが、ネットになら発信できる。わたしが知らないトラウマンガは、きっとあなたが読んでいるだろうから。いいのがあったら、ぜひご教授くださいませ。

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質問を受けた読んだマンガのレビューはここ→[参照]
いや~読むんじゃなかった…と激しく後悔させてくれる劇物ばかりナリ

劇薬小説【まとめ】

 はてな「読後感サイアクの小説を教えてください」で教えていただいたものを、読んできた。質問[ここ]からピックアップしている。過去のエントリ「劇薬小説を探せ!」を元ネタにして、これまで読んできた劇薬小説をまとめてみる。

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劇薬小説とは

 読了して後味の悪い思いをした小説を指す。読んだことを激しく後悔するような、いやあぁぁぁな気分にさせてくれる本。下らなくて情けなくなる「壁投げ本」ではない。また、マンガを含めると莫大になるので、対象外とする(ちなみに劇薬マンガNo.1は日野日出志「地獄の子守唄」)。

    エロだったりグロかったり、救いがなかったり

    大の大人なのに怖くて夜に読めなかったり

    読了してヘコんだり、生きる気力が奪われたり

    生理的にクるものに、おもわずマジ嘔吐したり

    その後、人生のトラウマと化したり

 小説はしょせん絵空事。リアルでない物語に実人生を侵食されるほどヤワじゃないと思っているし、相当読みこんできている自負もある。だからたいていの「オススメ」はたいしたものじゃない。ただの「出来のよい」ホラーや「救われないラストの」ミステリなら山ほどある。はてなの住民は「普通」で「お上品」な方が多いような気が。

 「爽やかな感動が得られます」クソクラエ。本を読んで感動するのは、実人生で感動するための訓練のためじゃろう。おまいらリアルで感動できないくせに小説に感動を求めるんじゃねェ!それはウソんこの感動だ。感動のシミュレートだ。

 ハラ減ってメシがうまい→感動。女はやっぱり美しい→感動。セックスはすばらしい→感動。くたびれて眠る→感動。感動できない未熟な人が、小説を読んで感動したフリをしているんだろ。マスターベーションと同じなり。

 人間やってて毎日感動しているんだから、たまには感情をネガティブにドライブしないと、釣り合いが取れない。ホラ、アイスクリームの後に熱い緑茶が飲みたくなったり、恋愛映画を見た後はスプラッタで口直しが必要だったりするだろ。

 けれども人間をやめるわけにはいかないので、やめたつもりになってみるぞジョジョオオオォォォーーーーーッ!!っつーわけで、「これは!」というものをチョイスした。

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2005.8時点でのランキング

最悪の読後感は、

  1.隣の家の少女(ジャック・ケッチャム)
  2.ぼくはお城の王様だ(スーザン・ヒル)
  3.砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない(桜庭一樹)
  4.蝿の王(ウィリアム・ゴールディング)

となっていた…



隣の家の少女隣ぼくはお城の王様だ砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない蝿の王


 ワースト3のサイアクっぷりは以下のとおり(【注意!】激しくネタバレだけなでなく、ショッキングなことも書いてあるので、承知したうえで反転表示してねッ)

 「隣の家の少女」は、虐待されるガールフレンドを助けられなかった男の子の話。両親を交通事故で亡くした姉妹を引き取った女が折檻する。そのエスカレートっぷりはわたしの限界を超えている。女は姉妹を地下室に監禁し、強がる姉を剥く。そして、自分の息子に「おまえ童貞だろ、ファックしてやりな」とけしかける。さらには××××ワードを糸で腹に縫い付ける場面はじゅうぶん嘔吐に値する。

 救われないのは、主人公が少年(子どもでないが、無力)というところ。姉のほうに淡い恋心を抱き、なんとかしようと足掻くのだが、しょせん子ども。己の無力さを思い知る。ラスト1ページで意趣返しはかなうのだが、そんなことをしても何も救われない。

 「ぼくはお城の王様だ」は、「強い立場」の子どもが「弱い立場」の子どもをイジメる話。読みどころは、誰もおかしくないこと。イジメられている子の母や、イジメっ子の父が偽善的に描かれていればまだ救いはある。しかし、誰かを悪者のように描いていない。ただ、ほんの少しだけ子どもから目を離していただけ(だと思いたい)。イジメっ子自身も悪者のように描いていない。イジメ慣れしていない子がイジメに走ると、陰惨なやつになる典型。

 誰も悪くないなどとは言わないが、誰かのせいにして読者に納得させること許さない。最終的に自殺にまで追い込まれる理由は、憎しみだ。イジメっ子が憎い、分かってくれない母も憎い、だが最もやりきれないのは、どこにも持って行き場のない憎悪を抱いてしまった自分自身。そのあまりの禍々しさにおののくシーンがある。誰にも打ち明けることもできず、独りで立ち向かうこともできず、ただ泣くしかない。普通の小説なら、誰かが流れを変えるきっかけをくれるのだが、ない。知らずに期待して読むと酷い目に遭う。

 「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」は、友達がバラバラにされて積まれているのを、女の子が見つけるまでの話。ラストでどうなるかは最初のページに書いてある。理不尽なセカイに無力なワタシ。オトナになるためには、子どもを生きのびなければならない。

 着地点が分かっていて、そこへの過程を綿密にたどるかと思いきや、そうではない。なぜそんなことになってしまったのかは説明されていない。「百合小説の傑作」という誰かの誉め言葉と表紙の萌え絵に吸い寄せられたのが運の尽き。予備知識ゼロで読んだ人は酷いショックを受けるかもしれない(例えば「君が望む永遠」を予備知識ゼロでプレイするとか)。



 ああ、そういえばわたしもそうだった無力で壊れやすい子どもだった。しかし、残虐なイジメに出くわすこともなく、己の憎悪に打ちひしがれることもなく、狂った親に殺されることもなかった。

以上、「最悪の読後感を味わわせてくれる小説」より引用した。こいつを肴にはてなでオススメいただいたものを読んだ結果がこれだ↓

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「はてな」でのオススメ劇薬小説

殺戮の「野獣館」(リチャード・レイモン)

読むハードコア・スプラッタ



 まずハードコア。強姦、獣姦、近親相姦。死姦、幼姦、阿鼻叫喚。嫐(女男女)も嬲(男女男)もある。まんぐり、八艘渡、緊縄、ロリペドなんでもござれ。ハードSM、食糞や飲尿まであれば百花繚乱だが、さすがにそこまではいかんかった。



 スプラッタも負けてない。一撃で顔の半分がエグりとられたり、食い散らかされ脊髄と下半身しか残っていなかったり、血まみれの親の前で娘(10歳ぐらい?)を○○したり、交合中に首チョンパだったり。ナイフ、銃、斧、チョーキング…と殺人手段もなんでもござれ(爆殺と薬殺がなかった)。



 じゃぁただのエログロバイオレンスかというとそうでもない。めちゃめちゃなストーリーだがこれがオモシロー。目を閉じアクセル踏みっぱなしの一本道だとアタリをつけていると、ラストでとんでもないオチが待っている…


  続きはここ→[参照]


D-ブリッジ・テープD-ブリッジ・テープ(沙藤一樹)

ネコ好き厳禁!



 グロ本。通常、グロはエロとセットなのだが、エロは皆無。オススメいただいて、かなり期待して読んだのだが、残念!非常に楽しく読ませてもらった。大感謝。悪食や自傷シーンは人によると吐くかもしれないので、ご注意を…



 近未来、ゴミに溢れた横浜ベイブリッジで少年の死体と一本のカセットテープが発見された。いま、再開発計画に予算を落とそうと、会議室に集まる人々の前でそのテープが再生されようとしていた。耳障りな雑音に続いて、犬に似た息遣いと少年の声。会議室で大人たちの空虚な会話が続くなか、テープには彼の凄絶な告白が…


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完璧な犠牲者完璧な犠牲者(クリスティーン・マクガイア)

事実は小説よりも奇を地で行く



 ハタチの娘が拉致され、調教され、肉奴隷となった7年間の話。これが「小説」ではなくノンフィクションであるところがスゴい。誘拐した男が自作した箱に「監禁」されるのだが、ぐだぐだここで説明するよりもこの絵を見たほうが早い…


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閉鎖病棟閉鎖病棟(パトリック・マグラア)

本当に「歪んだ純愛の形」なのか?



 素直に「良かった」といえる作品。劇薬度は低。この小説をどういう風に読むのが効果的か考え込んでしまう。「歪んだ純愛の形」も「狂気に燃える情炎」もマチガイではないのだが、話者の狂気まで想像が閃いてしまうのは気のせい? 裏読みすぎ?



── けれども、時どき出てくる一人称がどうしても目に付くのよ、まるで読んでる自分が試されている気がして。そして読み終わった後でもじくじくと後を引くのよ、そういう意味では遅効性の毒薬なのかも。


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自由自殺法自由自殺法(戸梶 圭太)

プロット一発勝負なら大傑作



 ただし、書いてる途中に行き倒れてしまっているもったいない作品。名は体、「国家が自殺ほう助する世界」の話。リアルな日本が描かれている。ネットよくあるセリフ「死ねば?」を執拗に拡大解釈し、「使えない国民を自殺まで誘導する」国家プロジェクトまで昇華させている。そのクセ内情は一切明かさない。ここまでは三重マル…


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溝鼠溝鼠(新堂冬樹)

ずばりヘンタイ小説



 「ヘンタイがでてきて読後感サイアク」との触れ込みで読んだが、勧めてくれた方は団鬼六を読んでないな。「溝鼠」をヘンタイというならば「花と蛇」をどうぞ。ヘンタイ萌えできますぞ。グロを抜いたらフランス書院にすら負ける。ただし、「そういうの」を身構えずに読んだ方はかわいそうかも。肛虐や飲尿が普通にあるし(笑 


  続きはここ→[参照]

アクアリウムの夜アクアリウムの夜(稲生平太郎)

「それなんてエロゲ?」



 文体がイヤらしい。まとい付くような書き方で、描写文が沢山あるにもかかわらず、実感がわかない。例えば、「激痛が走った」とあっても、まるで現実感がない。著者はどう痛いのかを想像して書くよりも、キャラを痛めつけるシーンだからそう書いているだけ。そうした意味でもテキスト系アドベンチャーゲームを彷彿とさせられた…


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我らが影の声(ジョナサン・キャロル)

ネタバレ厳禁



 やべ、一行たりとも感想が書けない。このblogを選書の参考にしている奇特な方もいらっしゃるようなので、書けない。どう書いてもバレになる。こんな小説は珍しい。



 常態から異常事態へ。このお話を「狂気」の一言で片付けられたらどんなに嬉しいことか。しかし、どこも狂ってないのがおそろしい。だいたいヒトを「正気」と「狂気」の2色で塗り分けようとすること自体がおかしい。正気の中にも狂気を宿し、狂っていても一貫性を見出そうとするのが、ヒトだ…


  続きはここ→[参照]

悦楽園悦楽園(皆川博子)

「獣舎のスキャット」は劇薬注意!



 やっほう!みんな聞いてくれ!「獣舎のスキャット」は読後感サイアクだったぞ。だからうっかり読まないように気をつけてね、特に女性は…



 この短編が収録されている「悦楽園」(皆川博子)は粒ぞろい。「退廃 + 刹那」の全共闘の時代なので、若い読者はとまどうかもしれないけれど、通底する コンセプトは一緒「人間こそが恐ろしい」。それは"血"だったり"業"だったり、あるいは過去のおぞましい記憶だったり。


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盤上の敵盤上の敵(北村薫)

時限爆弾を解除する読み方



  とても面白し。ところがamazonレビューでは「傷ついた」「落ち込んだ」「世の中の不条理を考えさせられた」が続出。何で? これのどこが「読後感サイアク」なのだろう… と想像して思いあたった…


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暗い森の少女(ジョン・ソール)

ひさびさに背筋が凍った



 とはいえ「正統派」なので展開はすぐに見抜ける。今の読者ならほとんど分かるに違いない。ほら、あれだ。80年代に流行ったホラー映画のアレ。伏線を張って「来るぞ来るぞ~」と読者に思わせておいて、やっぱり、



キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!


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きみとぼくの壊れた世界きみとぼくの壊れた世界(西尾維新)

妹+ツンデレ+密室殺人



 萌え本としてスゴ本。かつ極悪なラストでやんの。「読後感サイアクの後味の悪さ」で紹介されたはずなのだが、とても楽しませていただいた。その理由として、わたし自身ギャルゲを少々たしなんでいたからだと告白しておく …ってか端々でそれを意識させられる(もちろんその経験がなくても充分楽しめる)…



 これは小説仕立てのギャルゲ。電脳紙芝居あるいはビジュアルノベルとも呼ばれ、「萌え絵+ヒネた主人公のモノローグ」で構成される。プレイヤー(読者)はときどき出てくる選択肢から「選ぶ」ことでお話を先に進め、異なる結末を目指す(マルチエンディング)。んで、がんばって読み進めたごほうびに18禁絵が出る(たいてい女の子の"攻略"に成功したときに、ね)。


  続きはここ→[参照]

妖魔の森の家妖魔の森の家(ディクスン・カー)

この手法のご先祖様



 スッキリ明快な帰結なのに、こんなにも生臭く肌寒い読後感は最高ですな。ディクスン・カーの短編「妖魔の森の家」のラストでまで読んで、一瞬だけ「自分の脳が理解することを拒絶した」そのとき、脳みそが動いたかのような錯覚が味わえる…


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贈る物語 Terror贈る物語 Terror(宮部みゆき編)

遅効性のヤな感じを味わう「くじ」



 収録作品はどれもピカイチ。ホラー好きなら、知らないなんてぶっちゃけありえない。おまけにゲーマー宮部氏の面目躍如、ロープレとアンソロジーの見事な融合も楽しめる(人狼の章はゲームのために起こしたとしか思えない)。


 さらに、「人はなぜ怖い話をするのか?」への彼女の回答に深く頷くべし。「人は誰しも心に闇を…」論なんだが、このアンソロジーを順に最後まで読むと納得できる(特にラストに「パラダイス・モーテルにて」を持ってくるところがGood!)。彼女はこの問いに答えるために、この本を編んだのだろうって…


  続きはここ→[参照]

ずっとお城で暮らしてる(シャーリイ・ジャクソン)

ホラーには美少女がよく似合う



少女という存在は見ているこっちが不安になるほど不安定なるもの。だから少女をきっちり描いているだけで、ゾワゾワしてくる…


  続きはここ→[参照]

たたりたたり(シャーリイ・ジャクソン)

 怖い、じつに怖い。「こわい本」大好きなわたしだが、今までさんざんそのテの小説は読んできたつもりだが、こいつはスゴく怖い思いをした



 どうして怖いのかというと、恐怖が間接的に、読み手の想像力に働きかけているかのように描かれているから。それはまず、登場人物が丘の屋敷から感じる、はっきりしない違和感として描かれる。不安定な感覚は不安に、そして恐怖へと静かに変わってゆく。


 じわじわ、じわじわ変わってゆく。


  続きはここ→[参照]

告白告白(町田康)

徹夜小説+劇薬小説+キ●ガイシミュレーター、そしてスゴ本



 一言で表すなら、読むロック(ただし8beat)。幸いなことに(?)これが何の小説であるか予備知識ゼロで読んだ。真黒なラストへ全速力で向かっていることをビクビク感じながら、まさかこんなとんでもない「事件」とは露知らず。


 テンポのいい河内弁でじゃかじゃか話が進む。この一定のリズムは音楽を聴いているようで心地よい。中毒性があり、ハマると本を閉じられなくなる。読み進むにつれ、朦朧とした不思議な感覚に包まれる。


  続きはここ→[参照]

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劇薬小説ランキング

現在こうなっている

  1.児童性愛者(ヤコブ・ビリング)
  2.隣の家の少女(ジャック・ケッチャム)
  3.獣舎のスキャット(皆川博子)
  4.暗い森の少女(ジョン・ソール)
  5.ぼくはお城の王様だ(スーザン・ヒル)
  6.砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない(桜庭一樹)
  7.蝿の王(ウィリアム・ゴールディング)

で、ランキングトップ(ワースト?)はこれ

児童性愛者児童性愛者(ヤコブ・ビリング)

ついに「隣の家の少女」を超える劇薬を読む



 エログロは無し。残虐シーンも無し。「読むスプラッタ」は楽しく読めたのに、本書は気分が悪くなった。特に、ある写真の真相が暴かれる場面は、予想どおりの展開であるにもかかわらず、読みながら嘔吐…で、ラストは絶望感でいっぱいに…


続きはここ→[参照]

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関連エントリ

そういえば「劇薬小説を探せ!」はどうなった?

読んではいけない――人生を狂わせる毒書案内

警告無しで読むには酷な小説

この企画の二番煎じ「読まなきゃよかった物語を教えて下さい。ネタバレ推奨」

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「はてな」でオススメいただいたその他の劇薬本


  • 記号を喰う魔女(浦賀和宏):壁投げ本。オススメしてくれた人に悪いが
  • 岬(中上健次):<未読>
  • 死者の奢り・飼育(大江健三郎):<未読>
  • 姉飼(遠藤徹):壁投げ本らしい。読まない
  • 黄金色の祈り(西沢保彦):くだらない話だったorz
  • 夏の滴(桐生祐狩):とんでもない話。後半で筆力がみるみる減っており作者が不憫なり。これは編集者の罪
  • 神様ゲーム(麻耶雄嵩):壁投げ本らしい。読まない
  • 夜の記憶(T.H.クック):<未読>
  • 悪いうさぎ(若竹七海):<未読>
  • グルーム(ジャン・ヴォートラン):<未読>
  • 雪の死神(ブリジット・オベール):orzらしいのでやめておく
  • 不思議な少年(マーク・トウェイン):たしかに厭世的になる
  • リカ(五十嵐貴久):壁投げ本。穂村愛美の方が恐ろしい
  • 鬱(花村万月):<未読>
  • クリスマス・テロル(佐藤友哉):壁投げ本らしい。読まない
  • 人獣細工(小林泰三):オススメした人に悪いが、くだらない
  • 恐怖夜話(ガストン・ルルー):<未読>
  • 夏の葬列(山川方夫):国語の教科書として読んだ人は激しくお気の毒というしか
  • 小説大逆事件(佐木隆三):<未読>
  • 異形の愛(キャサリン・ダン):畸形たちの「ホテル・ニューハンプシャー」(J.アーヴィング)
  • ロウフィールド館の惨劇(ルース・レンデル):<未読>
  • ZOO(乙一):激しく期待→激しく失望
  • 異形博覧会(井上雅彦):ソコソコ期待→失望
  • わが愛しき娘たちよ(コニー ウィリス):ひっかからなかった
  • ある晴れた日に(ドーン・パウェル):ひっかからなかった
  • 問題外科(筒井康隆):<未読>
  • クリスマスに少女は還る(キャロル・オコンネル):<未読>
  • チョコレート・ウォー(ロバート・コーミア):<未読>



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これから読む劇薬小説


  • 骨餓身峠死人葛(野坂昭如)
  • 問題外科(筒井康隆)
  • 地下室の手記(ドストエフスキー)
  • ロウフィールド館の惨劇(ルース・レンデル)



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Author:Dain5
スゴ本より成人向のキッツいのを。
いいのがあったらご教授を。

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