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劇薬小説『左巻キ式ラストリゾート』

左巻キ式ラストリゾート 読む暴力。セックス&バイオレンス描写の破壊力のみならず、そのコンテンツを嗜む人を狙い撃つ悪意という名の善意が残酷すぎる。歴戦のエロゲーマーにトドメを刺すのが、これだ。

 記憶喪失の主人公が目覚めたのは、12人の少女が生活する学校。お約束のハーレム世界、閉鎖空間、そいつをぶち壊すサイコパス。女を蕩かす催淫剤、連続陵辱スプラッタ、純愛、そしておもらし。文字通り読み手(=プレイヤー)を引き込み、問いを突きつけ、自分がやっている行為を無理やり見せ付けてくれる。読み手を、物語の消費者とさせてくれない危険な小説(注意:読者は安全圏でない)

 物語の役割は、現実のシミュレートだ。どんなに珍奇でありえない世界であろうとも、そこで展開される対話や行動は、読み手とつながっている。人が一切登場せず、たとえ非生物であったとしても、物語を受け取る人は、そこに自分を見ようとする。好悪や否定も含め、現実と比較しようとする。なぜなら、それこそが理解する即ち「読む」ことそのものだから。読むことを通じて、人は自分の欲望を充たしたり引っ込めたりする。リアルとは違って、真の意味でFREE PLAYなのだ。

 グロスで来るエログロに冷静な主人公は、それを読む"わたし"の異常性をあぶりだす。つまりこうだ。バラバラにされた肢体を前に、魚の腐った生臭い血潮の中、「正直に言うと、つまらない映画がやっと山場を迎えた時のような、ほんの少しの期待と喜び……そんなものを感じている」。まともじゃない。この感覚そのものが異常なのだが、正直に言うと、この手のジャンルを飲み食いする"わたし"自身、彼のように感じているのではないか。

 お約束の設定からめちゃくちゃに暴走する物語なのに、主人公と犯人の両方に"わたし"をシンクロさせる手腕は素晴らしい。劇物好きであればあるほど、危うい。この小説が危険なのは、"わたし"を物語世界に没入させるべく仕掛けるのではなく、「いま」「ここ」こそが、抜き差しならぬ暴力とエロスに満ちた世界であることを、わたし自身の感情を通じて証明しているところ。エログロに「退屈」を覚えているわたしこそがエログロなのだ。現実をシミュレートした物語を消費している"わたし"自身を、この物語がシミュレートしてくる。これは怖いデ。

 もとはゲームのノベライズという。これまで沢山のエロゲを消費してきた人が、最後にするゲームとなるのは、これだ。これをクリアする(=読み終える)ということは、「リアルという名のゲーム」と対峙する以外の全ての選択肢が消えてしまうのだから。

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