劇薬小説ベスト10と、これから読む劇薬候補
はてなでの[募集]の結果。みなさまのオススメに大感謝。冒頭の十大劇薬小説のインパクトが激しかったのか、毒気の濃いものばかり。
一連のやりとりで気づかされたのは、毒にも薬にもなること、あたりまえなんだけどね。さらに、読んだ時期によって毒成分が異なる、いわば「旬」というものがあること。三島「憂国」なんて特にそう。多感なトシゴロに読むと間違いなく猛毒または特効薬になる。考え方の基盤を根こそぎ変えてしまうようなインパクトをもつ。
オトコには毒だが女性には効かないとか、童貞専用の猛毒小説とか、子どもがいるなら絶対読めないとか… 属性・状況によりけり。
ここでは、オススメいただいたいくつかを読んだ感想と、これから読む劇薬候補を挙げる。ぬるい恋愛・涙ちょーだいモノに飽きたらどうぞ。イタいかキモいか分からないが、より本能に近い感覚を味わうべし。
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劇薬小説ランキングベスト10
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「トマト・ソース」以外のレビューは、[ここ]にある。「普通」の人は読まないほうが吉。「トマト・ソース」のレビューは、以下に書いた。
知らなくてもいいことは、確かにある。いや、「知らない方がいいこと」、だな。
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「はてな」でオススメいただいた「どくいり・きけん」小説
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残念ながら(?)、オススメいただいて読んだものはどれも楽しめた。通常の感性には強烈なインパクトを持っていることは確か。人によると琴線が焼き切れてしまうかもしれない。
■ 三島由紀夫「憂国」
死に裏打ちされたセックスが神々しい。健康な欲望と国体が究極のところで合致することが「自然」に見える。切腹シーンは見てきたように、というよりも、自腹を裂いてきたのような生々しさ。
こんなときは、イメージよりも嗅覚をめぐらすのだが、秘部から淡い立つ匂いだけの描写にとどまっており、ちょい欲求不満。腹腔内はスゴく臭いし、大量の血液が流れ出しているので、鉄臭さが立ち込めているはず。書き手は、そんな状況を分かりきった上で、あえて省いたのだろう。
「死」をここまで美化する「うろんさ」に辟易する。童貞時代にうっかり読んだら魂にまで刷り込まれていた美文だな。だから、若い人には劇薬になるかも(中学女子あたりが狙い目)。
高校生の姪っ子に「三島由紀夫の一冊目は何がいい?」と訊かれたことがある。あのときは「夏子の冒険」と即答したけど、今度からは「憂国」を推そう。
■ 筒井康隆「偽魔王」と「乗越駅の刑罰」
エログロが書きたくって仕方がないのが見える。作中人物よりも著者の欲求がキモチワルイ。やおいに意味を求めることが無意味であるように、エログロ以外は徹底的に何も書いていない。
口鼻をガムテで塞いで、尻穴から空気をメ一杯入れたら… とか、ありえないチカラで両足を持ってねじり裂いたら… とか、普通の人が考えつく残虐さ。常人の曲芸を見ている感覚。書いてる奴は明らかにおかしい「狂鬼降臨」と比較すると、筒井氏はマトモというより愉快犯に見えてくる。
「偽魔王」の残虐さが好きなら、バーカー「血の本 : 屍衣の告白」を、「乗越駅の刑罰」の"刑罰"がキた人には、沙藤一樹「D-ブリッジ・テープ」あたりをどうぞ。
■ 曽野綾子「長い暗い冬」
既読だったのを思い出させてもらった。オススメいただいた toomuchappy さんに感謝。読むと憂鬱になることと、ファイナルインパクトが衝撃的。「太郎物語」あたりをノン気に読んだ直後に手にすると、かなり毒かも。彼女の「地」がよく出ているから。ホラ、あれだ、「時をかける少女」の直後に筒井本人がパロった「シナリオ・時をかける少女」を読むようなもの(アニメで「時かけ」知った人は読んじゃダメ・ゼッタイ)。
■ 小川勝己「彼岸の奴隷」
登場人物全員がどこか狂っており、マトモな人はどこかで惨殺される。
最悪なのがヤクザの若頭、こいつは変態狂人として描きたいらしい。部下に肉料理をご馳走してやるんだが、コース最後のデザートで、部下の妻子の生首が出てくる。肉料理というのは自分の妻子の「肉」だったというオチ。
普通の獣姦ショーには飽き足らず、女の両手両足を切断・縫合し、口裂け状態にしたあと縫い合わせた人玩具にする。縫合はタコ糸というのがポイント。さらに(勃たないのに)自分の子が欲しいそうな。なぜか?自分の愛する存在を食ってしまいたいらしい。つまり、喰うための我が子が欲しいんだって。
全員が狂っていて、その狂いっぷりを楽しむのなら、「殺伐の野獣館」だね。ハードコア+スプラッタ。強姦、獣姦、近親相姦。死姦、幼姦、阿鼻叫喚。まんぐり、八艘渡、緊縄、ロリペドなんでもござれのつゆだく特盛。「彼岸の奴隷」がイケるならどうぞ。
■ トオマス・マン「トビアス・ミンデルニッケル」
マンですかーっと構えて読んで引っくり返される。なるほど、「ここに私がいる」感覚は確かにある。ここで犠牲になったのは畜生だったけれど、「人間の赤ん坊」に置き換えると途端に現代日本になる罠。
■ エーヴェルス「スタニスラワ・ダスプの遺言」
これいい!読み進めるうちに、だんだん追い詰められていく感覚がいい。彼女が何を意図していたのかが最後の最後になって分かる「仕掛け」がいい。物語上のキャラと一緒に逃げ場がなくなった上で、対面させられる恐ろしさで息が詰まるのがいい。
スゴい小説を読むと発動してしまう悪癖「先読み」のせいで、ラストはExplosionだとあたりをつけていたのだが…見事に裏切られた!しかも、さらにおぞましい形で。オススメいただいたsbiacoさんの評は、
> 思わずページから顔をそむけたくなるほど。
だったけど、彼女が○○したという場面では肌がザっと粟だった(彼女の"表情"が見えた)。文字通り心臓が凍る瞬間を味わえる。他に「トマト・ソース」が秀逸らしいが、書籍化されていないようだ… 雑誌を漁るか。
■ エーヴェルス「トマト・ソース」
本能にクる、思わずページから顔をそむけた。わたしの中の「そういうところ」にビンビンと反応した。いや、グロとかエロといった即物的な奴じゃない。「そういうところ」をキレイに蒸留・昇華した「演出」が、ぜんぶ剥ぎ取られており、まるで自分の臓器をつかみ出されて見せられているようだ。
いや、それは違うだろ、グロスキーなオマエだから反応しているんじゃぁねぇのか、と反論できる。ああ、そうかもしれない。そうだったなら、どんなにいいことだろう。
でもね、ボクシングや格闘技を見るとき、血肉が沸き踊る感覚は、確かにある。それを「読む」ことができる。そして、本当は自分が何を求めているのかを、体験することができる。ラストの「コケコッコー!!」の場面は鮮やかに視覚化できたよ、そこに坐って見ているわたし自身も込みで。
惜しいことに、この作品は書籍化されていない。アトリエOCTAが出版した「幻想文学」第64号(2002.7)に、その全訳が掲載されている。図書館かバックナンバーで自分の臓物を確かめて欲しい。
H.H.エーヴェルス作品は初読みだが、出版界では不遇をかこつているようだ。ヒトラーが好んで読んだという逸話があるぐらいだから? 劇薬アンソロジーを編むなら、いっとう最初に「トマト・ソース」を、ぜひ。
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これから読む劇薬候補
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壁投げ本が混ざってるが、少なくとも手にとってみる。触って開いて匂いを嗅いで、あとは本能に従うべし(オンナといっしょ)。文字通り毒味役となってご紹介していこう。
コメントでオススメされたタイトルは、下記の通り。
神様ゲーム
ヤン・ヴァイス『迷宮1000』
コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』
牧野修『リアルヘヴンへようこそ』
牧野修『だからドロシー帰っておいで』
牧野修『MOUSE』
ドノソ『夜のみだらな鳥』
箱庭社会図
リアルヘブンへようこそ
独白するユニバーサル横メルカルトル
異形の愛
死体のある光景
終わらない夏休み(ネット小説)
牧野修の『屍の王』
友成純一『狂鬼降臨』
村上龍『愛と幻想のファシズム』
『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件』
クビーンの「裏面」
マイケル・マーシャル・スミスの「死影」、「孤影」、「惨影」
マイケル・スレイド/「髑髏島の惨劇」/文春文庫
『羆嵐』吉村昭 (新潮文庫)
『さよならを教えて』
『責め苦の庭』
『白檀の刑』
一連のやりとりで気づかされたのは、毒にも薬にもなること、あたりまえなんだけどね。さらに、読んだ時期によって毒成分が異なる、いわば「旬」というものがあること。三島「憂国」なんて特にそう。多感なトシゴロに読むと間違いなく猛毒または特効薬になる。考え方の基盤を根こそぎ変えてしまうようなインパクトをもつ。
オトコには毒だが女性には効かないとか、童貞専用の猛毒小説とか、子どもがいるなら絶対読めないとか… 属性・状況によりけり。
ここでは、オススメいただいたいくつかを読んだ感想と、これから読む劇薬候補を挙げる。ぬるい恋愛・涙ちょーだいモノに飽きたらどうぞ。イタいかキモいか分からないが、より本能に近い感覚を味わうべし。
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劇薬小説ランキングベスト10
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- 狂鬼降臨(友成純一) 所収:「獣儀式」
- 骨餓身峠死人葛(野坂昭如)
- 児童性愛者(ヤコブ・ビリング)
- 隣の家の少女(ジャック・ケッチャム)
- 城の中のイギリス人(マンディアルグ)
- トマト・ソース(H・エーヴェルス)←今回ランクイン
- 目玉の話(バタイユ)
- 暗い森の少女(ジョン・ソール)
- 問題外科(筒井康隆)
- きみとぼくの壊れた世界(西尾維新)
「トマト・ソース」以外のレビューは、[ここ]にある。「普通」の人は読まないほうが吉。「トマト・ソース」のレビューは、以下に書いた。
知らなくてもいいことは、確かにある。いや、「知らない方がいいこと」、だな。
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「はてな」でオススメいただいた「どくいり・きけん」小説
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残念ながら(?)、オススメいただいて読んだものはどれも楽しめた。通常の感性には強烈なインパクトを持っていることは確か。人によると琴線が焼き切れてしまうかもしれない。
■ 三島由紀夫「憂国」
死に裏打ちされたセックスが神々しい。健康な欲望と国体が究極のところで合致することが「自然」に見える。切腹シーンは見てきたように、というよりも、自腹を裂いてきたのような生々しさ。
こんなときは、イメージよりも嗅覚をめぐらすのだが、秘部から淡い立つ匂いだけの描写にとどまっており、ちょい欲求不満。腹腔内はスゴく臭いし、大量の血液が流れ出しているので、鉄臭さが立ち込めているはず。書き手は、そんな状況を分かりきった上で、あえて省いたのだろう。
「死」をここまで美化する「うろんさ」に辟易する。童貞時代にうっかり読んだら魂にまで刷り込まれていた美文だな。だから、若い人には劇薬になるかも(中学女子あたりが狙い目)。
高校生の姪っ子に「三島由紀夫の一冊目は何がいい?」と訊かれたことがある。あのときは「夏子の冒険」と即答したけど、今度からは「憂国」を推そう。
■ 筒井康隆「偽魔王」と「乗越駅の刑罰」
エログロが書きたくって仕方がないのが見える。作中人物よりも著者の欲求がキモチワルイ。やおいに意味を求めることが無意味であるように、エログロ以外は徹底的に何も書いていない。
口鼻をガムテで塞いで、尻穴から空気をメ一杯入れたら… とか、ありえないチカラで両足を持ってねじり裂いたら… とか、普通の人が考えつく残虐さ。常人の曲芸を見ている感覚。書いてる奴は明らかにおかしい「狂鬼降臨」と比較すると、筒井氏はマトモというより愉快犯に見えてくる。
「偽魔王」の残虐さが好きなら、バーカー「血の本 : 屍衣の告白」を、「乗越駅の刑罰」の"刑罰"がキた人には、沙藤一樹「D-ブリッジ・テープ」あたりをどうぞ。
■ 曽野綾子「長い暗い冬」
既読だったのを思い出させてもらった。オススメいただいた toomuchappy さんに感謝。読むと憂鬱になることと、ファイナルインパクトが衝撃的。「太郎物語」あたりをノン気に読んだ直後に手にすると、かなり毒かも。彼女の「地」がよく出ているから。ホラ、あれだ、「時をかける少女」の直後に筒井本人がパロった「シナリオ・時をかける少女」を読むようなもの(アニメで「時かけ」知った人は読んじゃダメ・ゼッタイ)。
■ 小川勝己「彼岸の奴隷」
登場人物全員がどこか狂っており、マトモな人はどこかで惨殺される。
最悪なのがヤクザの若頭、こいつは変態狂人として描きたいらしい。部下に肉料理をご馳走してやるんだが、コース最後のデザートで、部下の妻子の生首が出てくる。肉料理というのは自分の妻子の「肉」だったというオチ。
普通の獣姦ショーには飽き足らず、女の両手両足を切断・縫合し、口裂け状態にしたあと縫い合わせた人玩具にする。縫合はタコ糸というのがポイント。さらに(勃たないのに)自分の子が欲しいそうな。なぜか?自分の愛する存在を食ってしまいたいらしい。つまり、喰うための我が子が欲しいんだって。
全員が狂っていて、その狂いっぷりを楽しむのなら、「殺伐の野獣館」だね。ハードコア+スプラッタ。強姦、獣姦、近親相姦。死姦、幼姦、阿鼻叫喚。まんぐり、八艘渡、緊縄、ロリペドなんでもござれのつゆだく特盛。「彼岸の奴隷」がイケるならどうぞ。
■ トオマス・マン「トビアス・ミンデルニッケル」
マンですかーっと構えて読んで引っくり返される。なるほど、「ここに私がいる」感覚は確かにある。ここで犠牲になったのは畜生だったけれど、「人間の赤ん坊」に置き換えると途端に現代日本になる罠。
■ エーヴェルス「スタニスラワ・ダスプの遺言」
これいい!読み進めるうちに、だんだん追い詰められていく感覚がいい。彼女が何を意図していたのかが最後の最後になって分かる「仕掛け」がいい。物語上のキャラと一緒に逃げ場がなくなった上で、対面させられる恐ろしさで息が詰まるのがいい。
スゴい小説を読むと発動してしまう悪癖「先読み」のせいで、ラストはExplosionだとあたりをつけていたのだが…見事に裏切られた!しかも、さらにおぞましい形で。オススメいただいたsbiacoさんの評は、
> 思わずページから顔をそむけたくなるほど。
だったけど、彼女が○○したという場面では肌がザっと粟だった(彼女の"表情"が見えた)。文字通り心臓が凍る瞬間を味わえる。他に「トマト・ソース」が秀逸らしいが、書籍化されていないようだ… 雑誌を漁るか。
■ エーヴェルス「トマト・ソース」
本能にクる、思わずページから顔をそむけた。わたしの中の「そういうところ」にビンビンと反応した。いや、グロとかエロといった即物的な奴じゃない。「そういうところ」をキレイに蒸留・昇華した「演出」が、ぜんぶ剥ぎ取られており、まるで自分の臓器をつかみ出されて見せられているようだ。
いや、それは違うだろ、グロスキーなオマエだから反応しているんじゃぁねぇのか、と反論できる。ああ、そうかもしれない。そうだったなら、どんなにいいことだろう。
でもね、ボクシングや格闘技を見るとき、血肉が沸き踊る感覚は、確かにある。それを「読む」ことができる。そして、本当は自分が何を求めているのかを、体験することができる。ラストの「コケコッコー!!」の場面は鮮やかに視覚化できたよ、そこに坐って見ているわたし自身も込みで。
惜しいことに、この作品は書籍化されていない。アトリエOCTAが出版した「幻想文学」第64号(2002.7)に、その全訳が掲載されている。図書館かバックナンバーで自分の臓物を確かめて欲しい。
H.H.エーヴェルス作品は初読みだが、出版界では不遇をかこつているようだ。ヒトラーが好んで読んだという逸話があるぐらいだから? 劇薬アンソロジーを編むなら、いっとう最初に「トマト・ソース」を、ぜひ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
これから読む劇薬候補
――――――――――――――――――――――――――――――――――
壁投げ本が混ざってるが、少なくとも手にとってみる。触って開いて匂いを嗅いで、あとは本能に従うべし(オンナといっしょ)。文字通り毒味役となってご紹介していこう。
- ポー「アモンティラードの樽」
- キャシー・コージャ「虚ろな穴」
- コンラッド「ガスパール・ルイス」
- 桐野夏生「グロテスク」
- 三浦 しをん「むかしのはなし」
- クック「夜の記憶」
- 麻耶雄嵩「神様ゲーム」
- ガストン・ルルー「恐怖夜話」
コメントでオススメされたタイトルは、下記の通り。
神様ゲーム
ヤン・ヴァイス『迷宮1000』
コードウェイナー・スミス『ノーストリリア』
牧野修『リアルヘヴンへようこそ』
牧野修『だからドロシー帰っておいで』
牧野修『MOUSE』
ドノソ『夜のみだらな鳥』
箱庭社会図
リアルヘブンへようこそ
独白するユニバーサル横メルカルトル
異形の愛
死体のある光景
終わらない夏休み(ネット小説)
牧野修の『屍の王』
友成純一『狂鬼降臨』
村上龍『愛と幻想のファシズム』
『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件』
クビーンの「裏面」
マイケル・マーシャル・スミスの「死影」、「孤影」、「惨影」
マイケル・スレイド/「髑髏島の惨劇」/文春文庫
『羆嵐』吉村昭 (新潮文庫)
『さよならを教えて』
『責め苦の庭』
『白檀の刑』