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女の子の匂いを再現する方法

 女の子の匂いをご存知だろうか?

 漂ってくる「匂い」というより、すれ違うときにクる「あの感じ」といったほうがいい。あるいは、部屋に入ったとき、女の子がいる(いた)空気のようなもの。大事なのはカッコ()の中で、視覚的ものではない。「さっきまで女の子がいた部屋」でも分かるし、建物内ならある程度たどるのは可能だ。

 最初は、私の変態的妄想力が産み出した幻臭かと思った。「女の子って、どうしてあんなにいい匂いがするのだろう」と悶々したことがある。が、同志の意見を総合し、私の経験を重ねると、どうやら妄想ではなさそうだ。

 それは、いわゆる「せっけんの香り」だろうか。石鹸そのものに限らず、中高生が滴らせているシャンプーやボディケア香や、デオドラントのメチルフェノール系の匂いなどが相当する。そうした、後付けの合成香料をもって、我々は「女の子の匂い」とみなしているのだろうか。

 たとえば、「ビオレさらさらパウダーシート せっけんの香り」を使ってみたところ、かなりの再現率で「女の子のいい匂い」が味わえる。

ビオレさらさらパウダーシート せっけんの香り」はマジで理想の女の子の匂いがすると聞いて実際買って嗅いでみたんだけど、本当に衝撃的なくらい女の子の匂いだこれ…[togetterより]




 だが、これは刷り込みに過ぎない。かつてキンモクセイの香りでトイレを想起していたように、上書きされた代替記憶なのだ。そうした後付けではなく、もっと内側からくる「匂い」である。

ヴァギナ

 鋭い人は、排卵日直前のヴァギナの匂いを思い出すかもしれない。バルトリン腺や皮脂腺、アポクリン腺から分泌される粘液のもつ、ココナッツに似た香りだ(と言われるが、私の経験では白桃を想起させる)。これは、『ヴァギナ』はスゴ本【全年齢推奨】で紹介したことがある。

 この匂いが独特であることに、特別な理由があるのではとにらんでいる。つまりこうだ。人類史のほぼ大部分、夜は暗闇だった。今は電気があたりまえになっているが、常夜灯が無かった時代のほうがはるかに長い。暗がりの中、パートナーが女であり成熟していることを確認する術は、匂いだったんじゃないかと妄想する。それに加え、食の嗜好や体質、健康状態は、体臭に表れるものもある。すなわち、闇の中でパートナーを嗅ぎ分ける匂いであり、その匂いに敏感なことに適応的になっているのではと妄想する。

 だが、この匂いは、そうしたイベントフラグ的なものではなく、もっと日常的に感じられる。上書き記憶された香料でもなく、イベントフラグでもないのであれば、「女の子の匂い」の正体は何なのか?ヒントはネットにある。

女の子の匂いは高級脂肪酸と安息香酸エストラジオールとのことなので、以前混ぜてみたら、本当に若い女性が歩いた後を通ったときに感じる「あの匂い」ができた[twitterより]





 この高級脂肪酸や安息香酸エストラジオールとは何か? 高級脂肪酸は、天然の油脂およびロウの構成成分であり、リノール酸や、オレイン酸などの仲間がある。また、安息香酸エストラジオールは最初に製品化されたエストロゲン医薬品である[Wikipedia:安息香酸エストラジオール]。製造方法は特許で守られており、キッチンで合成できるものではなさそうだ。化学系の研究室なら揃っていそうだが、縁のない私には入手困難である。

 捨てる神あれば拾う神あり。需要あるところに供給あり。

 プロモーションやイベントで、「匂い」を使った空間演出を手がけるZaaZ(ザーズ)という会社がある。同社が開発したディフューザーは、マイクロミストを放出し、必要な空間を匂いで満たすことができる。面白いのはオリジナルな匂いを作ることができ、「西麻布のお寿司屋さんで仕込んだすし酢の匂い」とか「夏祭りでおじさんが鉄板で作った焼きそばのソースの匂い」など、実にさまざまな匂いがある[ZaaZ Energy]

 その中に、「お風呂上がりの女の子の匂い」がある。sankeibizレポート「“風呂あがりの女子の匂い”が買える時代」によると、こうある。

「モワっとした温度と湿度、そしてほのかな石けんの香りと、フローラル系のかすかな匂い。匂い自体は強いものではないが、複雑に混ざりあい、お風呂上がりの空気を感じられた」


 いいね! 喜び勇んで販売元に行ってみるが、もはやなくなっている模様……だが、諦めぬ。もうすぐ、VRを用いた性愛シミュレーターや、性交渉機能に特化したセクサロイド市場が一般化するだろう。視覚+触覚に対し「匂い」が売れることは必然なので、近いうちに東京ゲームショウで見かける(嗅げる)だろうから、そこでお試ししてみよう。個室ビデオやリンリンハウスのオプションになる日も近い。

 未来は今だ! ZaaZが設立した新会社VAQSOが、VR外付け匂いデバイスを開発したらしい。Playstation VR、Oculus Rift、HTC VRなど、様々なデバイスに装着可能で、女の子の匂いにも対応しているらしい。VRコンテンツと同期して、たとえば「銃を撃って何秒後に火薬の匂いを出す」ことも可能とのこと(参考:『女の子の香り』がするVR、実現へ──PSVR・Vive・Oculus対応の外付け匂いデバイス登場)。心のノートに彫っておけ。

悪魔が教える願いが叶う毒と薬

 もっと手軽に(≒安価に)再現できないものだろうか。答えは本にあった。『危ない28号』『アリエナイ理科ノ教科書』で有名な薬理凶室の新著『悪魔が教える願いが叶う毒と薬』である。

 本書は、サプリメントから処方薬、漢方薬から違法麻薬まで、願いごと別に集めて解説したものである。人の身体の代謝や反応は化学物質により引き起こされる。ということは、化学物質を用いることである程度コントロールできるという発想で、一般的な使用法から「裏の使い道」までを紹介してくれる。

 たとえば、リ●ップには「悪夢」の副作用を引き起こす、ミノキシジルという成分が含まれているという。これを、「死なない程度で悪夢を見る程度」服用する用量と方法が書いてある。あるいは、老いたマウスと若いマウスの血液を交換することで、老いたマウスが若返えったというレポートが紹介される。なんともジョジョの奇妙な実験だが、スタンフォード大学で2011年に実際に行われたものらしい。さらに、ひまし油を使った下痢チョコ(≠義理チョコ)のレシピが載っている。シャレにならないネタ満載だが、その中に、「女の子の匂いを合成する」があった。

 女の子の匂いの合成レシピは、2つ紹介されている。

 まず正式バージョン。匂い成分の元はカプリン酸とカプリル酸だという。これを1:1に配合した母液を用意して、そこにミルク香料とバニラエッセンスを加え、安息香酸エストラジオールを添加させることにより、再現できるらしい。

 さらにエタノールで希釈して散布することで、「部屋の中に女の子がいる」いい感じに仕上がるという。Playstation VRと非常に親和性が高そうだ。これをベースに「プチサンポン」を重ねがけすると、「お風呂上りの女の子」バージョンになるという。4DXやMX4Dと非常に親和性が高そうだ。

 ただ、一般家庭にない素材もあるため、本書ではもっと身近な食材を使った合成方法も紹介されている。材料はバターとバニラエッセンスの2つだけ。バターの低沸点揮発流分を分解するという。手順は次の通り。

  1. バターを試験管に入れてアルコールランプで加熱し、揮発したバターの成分をガラス管経由で氷水で冷やした試験管へ導き、液体として抽出する。抽出液は焼きたてのパンのような香ばしい匂いになる。
  2. 抽出液を透明な瓶に入れて、3~4時間直射日光に当てる。日光に含まれる紫外線によって適度な分解が起こり、バターの香りに少し鼻をつくようなツンとした匂いがプラスされる。
  3. 最後に、微量のバニラエッセンスを加えればできあがり。ツンと鼻をつくが、ほのかに甘い匂いで、女性の胸の谷間に分泌される芳香成分と非常に似ている
  4. さらにセッケン香水などを混ぜると、なかなか再現度の高い、女の子の匂いになる


 問題はステップ1。写真入りで分かりやすく説明してくれているが、試験管もガラス管もアルコールランプも持ってない。要するに、熱したバターの揮発成分を液体で集めればいいのであれば、蓋つきフライパンで事足りる。

Photo

 中の様子を確認するため、ガラスの蓋にして、とろ火で加熱しつつ蓋を水で冷やす(熱でビニールが溶けないように注意)。すると、蓋の内側に水滴が生じる。これを器に集めてラップして、あとはステップ2以降の通りに作るだけ。

 ひと嗅ぎしたら、プルースト効果に打ちのめされる。ほらあれ、『失われた時を求めて』の最初にある、紅茶に浸したマドレーヌの香りから、幼少時代を思い出すやつ。この「女の子の匂い」から、高校時代を思い出す。

 体育の後、女子は教室で着替えるやろ? 次の授業があるし男子は扉の外で待っているから大急ぎで着替える。8x4もそこそこに、女子全員が着替え終わった直後、まだカーテンも開けきっていない教室に足を踏み入れた瞬間の、「あの匂い」がそこにあった。「臭い」の二歩手前の、青い匂いである。懐かしさよりも恥ずかしさを思い起こさせる。

 私なりのアレンジとして、「クラブ ホルモンクリーム」をお勧めしたい。肌荒れを防ぐクリームで、女性ホルモンの一種であるエストラジオールが配合されている。

 これと、上で作成した「女の子の匂い」を配合させると、叔母さんの匂いそのものになった。三十前半ぐらいだろうか。一緒のお風呂で、体を洗いっこしたっけ(めちゃくちゃ反応していたことを告白しておこう)。今となってはマドレーヌ並みに甘い思い出だが、これでいつでも呼び覚ますことができる。

 「奥さんがいるなら嗅がせてもらえばいいんじゃね?」というツッコミがあるだろう。そんなことは分かっている。だが問題は2つある。我が妻は、変態的行為には手段を選ばず、くんくんしようものなら容赦なく反撃してくる。そして、妻の匂いは「女の子」ではなく、女の匂いそのものになっているのだ。

パフューム ある人殺しの物語

 「ば~~~~~~っかじゃねぇの!?」というツッコミは、その通りだと思う。ただ、そういう方には、汚濁にまみれ悪臭の立ち込める18世紀のパリで、異様なまでに「におい」に執着した男の物語『香水』をお勧めしたい。匂いの天才が、至高の香りを求める、「におい」の饗宴を嗅ぎたまえ(映画版は『パフューム』)。

 匂いは言葉より強い。どんな意志より説得力をもち、感情や記憶を直接ゆさぶる。人は匂いから逃れられない。目を閉じることはできる。耳をふさぐこともできる。だが、呼吸に伴う「匂い」は、拒むことができない。匂いはそのまま体内に取り込まれ、胸に問いかけ、即座に決まる。好悪、欲情、嫌悪、愛憎が、頭で考える前に決まっている。

 だから、匂いを支配する者は、人を支配する。匂いで人を操る彼が求めた「究極の香りを持つ少女の匂い」とは、「女の子の匂い」の完全体だったのかもしれない。

このエロマンガがエロい!2016

 今年の12月は、23日(祝)、24日(土)そして25日(日)というジェットストリームアタックで、色んな意味で消耗する。あつらえたかのような土曜日は、色んな事に励む恋人たちでリアルは充実し、電脳空間は閑散とするだろう。だからこの性夜、とびきりのエロマンガを紹介する。

 これからオススメするものは、年100作品を消化するわたしが厳選を重ねた逸品ばかり。広さと深さを追求した[スゴ本ブログ]とは異なり、誰もが知ってる王道ばかりかもしれぬ。だが、それはそういう趣味に近い作品を並べたリストとしてご笑覧いただければと。

 では、どういう趣味か(←これ重要)。ニーズに合わない作品を押し付けられても辟易するだけ。なので、わたしのニーズをまとめるとこうなる。

 1. 女の子がまんざらでもない感じ
 2. 乳お化け苦手、断面図は慣れた
 3. 現実的な肉付き
 4. 暴力・闇オチは好きだけど非実用的
 5. イキ顔イキ声重要

 まず1のシチュエーション。「まんざらでもない感じ」が大切だ。弱みを握られたり実は秘かに好きだったという設定が前段で描かれ、「しししし、しよーがないなー」と言いながら応ずるのがベスト。2や3の描写は「好み」。ロケット巨乳よりも、ささやかな方がソソるし、下腹・腰周り(≠尻)にわずかに贅肉が描いてあると、「こいつ分かってる」と思う。4.はまんまで、5.は、あえぎ声が堪えている「ん」音から慎みがなくなる「あ」音に変わるとリアルに感じる。

 この趣味で、今年読んできた中で、ベスト3は、これになる。


放課後バニラ

きい


放課後バニラ

 20代前後の初モノが基本。やわらかい絵柄で描かれた、甘酸っぱい青春モノに、ドスケベな情交がついてくる。そのギャップがファンタジーでありドキュメンタリーであり、「やれたかもしれない世界線」なのだ。お互いに好意を持ってて性に興味はあれど、「その一線」をどうやって越えるかが腕の見せ所。たとえば、修学旅行の夜にシてるのをミちゃったとか、就職面接のために上京してきた姪がシャワーから出たところと鉢合わせしたりとか。日常的な交友関係を超えるハプニングの持って行きかたが抜群にうまいのだ。行為の場面のギャップは特筆に価する。あの清純な笑顔の裏にこんなにえっちで愛たっぷりのドロドロ顔&局部を隠していたなんて……! 彼が好きだ! という気持ちが溢れていて、読んでるこっちがニヤけてくる。


とくべつな毎日

柴崎ショージ


とくべつな毎日

 高校生がメイン。田中ユタカを思い出させる顔つきに、よりリアルな体つき(つまり、胸はそんなに大きくないし、腰つきは現実的にしっかりしているし、ふくよかな子はふくよかに描かれている)。アニメ的なデフォルメされた胸尻でないのがいいのだ。田舎のフツーの、どちらかというと優等生カップルの恋愛が、ふっと一線を越えてしまうのがまたいい。私が高校生のときにしたかった恋(けれども絶対にありえない)が、私のために描かれているかのようで胸熱になる。えっちな場面も「ふつうにえっち」なのがいい。アクロバティックな体位や妙な技巧なんてなく、ひたすら愛し合う姿がこれまた生々しい。


ぱんでもにうむ

なぱた


ぱんでもにうむ

 これはエロい。シャープな線でスレンダーな身体なのに、その場所は柔らかそうに描いてある(これはすごい)。義兄妹とか許嫁とか、疑似家族から結ばれる変化球的な恋。好き同士が結ばれるのはいいとして、ひたすら快楽をむさぼる女の子の姿は、性の喜びを知りやがって……! と言いたくなるが、ひたすら羨ましいぞ。これも清楚な表情だったのが欲情に歪むギャップを愉しむもの。これ、イクときの「~~~っっ」的な顔が素晴らしい。自分の身体についてあらためて驚いており、その快楽を怖いくらいに感じている姿が可愛らしい。萌え出るような控え目な若草もいい。無毛が流行る昨今、リアルに描かれているのはポイント高し。

 あらためて振り返ると、若者同士の貪るような性愛を(感情面も含めて)しっかり描いているのが好みのようだ。これはいわば、代償行為やね。わたしにとって、「なかった性春」の記憶を、エロマンガで上書き保存しようとしているのだろう。実用に供することもあるが、ときどき、甘酸っぱい気持ちになりたいときに恋愛パートだけ読み返したりしている。

 以上、3作品を紹介したが、「それが良いならコレなんてどう?」というのがあれば、是非ゼヒお薦めしてほしい。巨乳・断面・性奴隷のファンタジーではなく、相思相愛ラブラブな読ませるやつを、お願いいたしまする。

劇薬小説『左巻キ式ラストリゾート』

左巻キ式ラストリゾート 読む暴力。セックス&バイオレンス描写の破壊力のみならず、そのコンテンツを嗜む人を狙い撃つ悪意という名の善意が残酷すぎる。歴戦のエロゲーマーにトドメを刺すのが、これだ。

 記憶喪失の主人公が目覚めたのは、12人の少女が生活する学校。お約束のハーレム世界、閉鎖空間、そいつをぶち壊すサイコパス。女を蕩かす催淫剤、連続陵辱スプラッタ、純愛、そしておもらし。文字通り読み手(=プレイヤー)を引き込み、問いを突きつけ、自分がやっている行為を無理やり見せ付けてくれる。読み手を、物語の消費者とさせてくれない危険な小説(注意:読者は安全圏でない)

 物語の役割は、現実のシミュレートだ。どんなに珍奇でありえない世界であろうとも、そこで展開される対話や行動は、読み手とつながっている。人が一切登場せず、たとえ非生物であったとしても、物語を受け取る人は、そこに自分を見ようとする。好悪や否定も含め、現実と比較しようとする。なぜなら、それこそが理解する即ち「読む」ことそのものだから。読むことを通じて、人は自分の欲望を充たしたり引っ込めたりする。リアルとは違って、真の意味でFREE PLAYなのだ。

 グロスで来るエログロに冷静な主人公は、それを読む"わたし"の異常性をあぶりだす。つまりこうだ。バラバラにされた肢体を前に、魚の腐った生臭い血潮の中、「正直に言うと、つまらない映画がやっと山場を迎えた時のような、ほんの少しの期待と喜び……そんなものを感じている」。まともじゃない。この感覚そのものが異常なのだが、正直に言うと、この手のジャンルを飲み食いする"わたし"自身、彼のように感じているのではないか。

 お約束の設定からめちゃくちゃに暴走する物語なのに、主人公と犯人の両方に"わたし"をシンクロさせる手腕は素晴らしい。劇物好きであればあるほど、危うい。この小説が危険なのは、"わたし"を物語世界に没入させるべく仕掛けるのではなく、「いま」「ここ」こそが、抜き差しならぬ暴力とエロスに満ちた世界であることを、わたし自身の感情を通じて証明しているところ。エログロに「退屈」を覚えているわたしこそがエログロなのだ。現実をシミュレートした物語を消費している"わたし"自身を、この物語がシミュレートしてくる。これは怖いデ。

 もとはゲームのノベライズという。これまで沢山のエロゲを消費してきた人が、最後にするゲームとなるのは、これだ。これをクリアする(=読み終える)ということは、「リアルという名のゲーム」と対峙する以外の全ての選択肢が消えてしまうのだから。

ホロコースト劇薬小説『ペインティッド・バード』

 戦争が子供に襲いかかり、子供が怪物に変わっていく話。

ペインティッド・バード エグいのに目が離せない、手が離れない、強い吸引力をもつ小説だ。TIMES誌の「英語で書かれた小説ベスト100」に選ばれている。

 「酒が人を駄目にするのではない、元々駄目なことを気づかせるだけ」という言葉がある。アルコールは本能をリミッターカットする。酒が個人に降りかかる狂気ならば、戦争は大衆を襲う狂気だ。10歳の男の子がサヴァイヴする疎開先の人々は皆、酔ったかのように本能に忠実だ。むきだしの情欲や嗜虐性が、目を逸らさせないように突きつけられる。目撃者=主人公なので、読むことは彼の苦痛を共有することになる。

 体験と噂話と創作がないまぜになっており、露悪的な「グロテスク」さがカッコつきで迫る。日常から血みどろへ速やかにシフトする様子は、劇的というよりむしろ「劇薬的」。スプーンくりぬかれた目玉が転がっていく場面は、狂鬼降臨のあの「抉り出される目玉から見た世界が回転していく」トラウマシーンを想起させる。白痴の女の膣口に、力いっぱい蹴りこまれた瓶が割れるくぐもった音は、今でもハッキリ耳に残っている。読んだものが信じられない目を疑う描写に、口の中が酸っぱくなる。耳を塞ぎたくなる。

 ペインティッド・バード(彩色された鳥)は、最初は遊びとして、次はメタファーとしてくり返される。生け捕りにした鳥を赤や緑色に塗って、群れへ返す。鮮やかに彩色された鳥は、仲間の庇護を求めていくが、群れの鳥たちは「異端の鳥」として攻撃する。その鳥は、なぜ仲間が襲ってくるか分からないまま引き裂かれ、墜落する。主人公は浅黒い肌、漆黒の瞳を持つ。金髪碧眼のドイツ兵がうようよいる戦地では、「反」ペインティッド・バードになる。

 暴力に育てられた子供は暴力を拠りどころとして生きる。自分が壊れないために、自分を欺く。同時代の戦時下をしたたかに生き抜く子供の話だと、アゴタ・クリストフ「悪童日記」を思い出す。これは、狂った現実を生き抜くために、受け手である自身を捻じ曲げる話。辛い過去や悲惨な出来事は、それを引き受けるキャラクターを生み出し、そいつに担わせる。

 この、過去を偽物にしないために、自分を嘘化するやり口は、「悪童日記」だとよく見通せる。続刊の「ふたりの証拠」、「第三の嘘」と追うごとに、過去を否定する欺瞞に瞠目するから。「ペインティッド・バード」では、そんなあからさまな相対化はない。だが、それぞれのエピソードごとに別々の「主人公」がいたのではないか、と読める。

 なぜなら、悲惨すぎるのだ。

 苛烈な虐待を受け続けると、普通は死ぬ。氷点下の河に突き落とされ、浮かび上がるところを押し戻され呼吸できない状態が続くと、溺れ死ぬ。真冬の森に放置されると、飢え死ぬか凍え死ぬ。だが、彼は生き延びる。次の章では誰かに助けられるか、まるでそんなエピソードは無かったかのような顔で登場する。これは、様々な死に方をしていった子供たちの顔を集めて、この「彼」ができあがったんじゃないかと。

 「彼」は著者に通じる。あとがきで幾度も「これは小説だ」と念を押したって、どうしても出自から推察してしまう。この本を出したせいで、彼は祖国から拒絶される。「ナチスのせいにされていたが、実は地元農民の仕業だった」虐殺を全世界に暴いたからだ。さらに、冷戦のあおりを受けて、親ソ的プロパガンダと扱われたり、反東欧キャンペーンの急先鋒と見なされたり、あちこちからバッシングを受け、命まで狙われるようになる。

 全米図書賞や合衆国ペンクラブ会長など、きらびやかな経歴をまとっている反面、物理的・精神的にも攻撃されるさまは、「ペインティッド・バード」そのもの。プロフィールの最後で著者の"墜落"を知って、うなだれる。

 これほど著者とシンクロし、その人生をねじりとった小説は珍しい。

こんな死に方は嫌だ『人の殺され方』

人の殺され方 日々に追われると、自分が死ぬ存在であることを忘れる。メメント・モリの実践。

 わたしは死ぬ、なぜなら、生きているから。どんな死に方になるのか楽しみだが、「こんな死に方は嫌だ」と心底・痛切に思うのが、「人の殺され方」。

 人は、列車に轢断されたり、ナイフで一突きされたり、散弾銃で撃たれたり、首を吊ったり、溺れたりと、さまざまなことが原因で死ぬ。これらの死に様は、轢死、失血死、縊死、溺死と呼ばれる。それぞれの現場を写したビジュアルは強烈だ。酸っぱいものを飲みこみ飲みこみ読むうちに、死亡の究極の原因が見えてくる。それは、「窒息」、すなわち細胞が新鮮な酸素をもらえなくなることだ。そのプロセスは多々あれど、結局は窒息なのだ。

 具体的に「見える」のもありがたい。「孤独死2週間目」「全身を強く打って」「頭を強く打って」「人身事故で」「線路内立ち入り」「メッタ刺しで」といったオブラートを剥がしてくれる。それぞれの事例の写真やイラストが添えられており、身体がどのように損傷したのか、どういう方向からエネルギーが加わったのかが、よく見える。最初は「なんだ、カラーじゃないのか」と不満たらたらだったが、読み進むごとに、ページを繰るのに勇気が必要になってくる。

 たとえば、散弾銃の威力をあますところなく伝えている一枚がある。2003年兵庫県の事件で、散弾銃を持った男が警官4名に向けて発砲し、2名が被弾したそうな。男は直後銃口を口に含んで自殺したのだが、その写真。頭部はそのままなのに顔面だけが完全に吹き飛んでいる。説明は、「その容貌はまるでグチャグチャに踏み潰したトマトにカツラをかぶせたようだ」とある。白黒の写真でホントによかった…

 あるいは、独り息を引き取ったまま、数週間放置された写真がある。腐敗ガスにより全身が膨張し、パンパンにふくれあがった巨人のようだ。このとき、泡状になった内臓により横隔膜が持ち上がり、肺が圧迫された状態になっているという。結果、眼が飛び出し、舌が膨れあがり、鼻と口から液体がにじみ出る。同時に糞尿も押し出され、体内の細菌や外来菌とともに腐乱パーティが始まる。白黒の写真でもインパクト大なり。

 どのような絶命バリエーションがあるかは、以下の目次から想像してほしい。

  第1章 死とは 脳細胞の死。死んでから
  第2章 窒息死 首吊り、絞殺など
  第3章 溺死 原因とプロセス
  第4章 毒殺 青酸カリ、フグ毒など
  第5章 刺殺・斬殺 その特徴
  第6章 焼死 犯罪と火。火傷
  第7章 感電死 感電による現象
  第8章 銃殺・爆殺 銃器と弾丸
  第9章 交通事故 その悲惨な実際
  第10章 虐待死 乳幼児への様々な虐待

死体のある風景 死ぬのは一回きりなのに、その形は実にたくさんある。読めば読むほど、「病死」や「大往生」のハードルが、どんどん上がっていくことを請け合う。穏やかに考えるなら、死を忘れないための3冊、キツく眺めるなら、「デス・パフォーマンス」か、「死体のある風景」を振り返ろう。

 死を忘れないために。
プロフィール

Dain5

Author:Dain5
スゴ本より成人向のキッツいのを。
いいのがあったらご教授を。

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